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台湾発の室内楽アンサンブル Cicadaが日本映画に切り込む 「ある男」楽曲制作秘話や音楽のルーツを明かす【Cicadaインタビュー】

本作で、登場人物の心の揺れ動きを強く印象づける劇伴音楽を務めたのは、台湾の室内楽アンサンブル「Cicada」。石川監督の「“アジアの音色”を反映させたい」という強い思いからオファーを受け、日本映画に初参加を果たしたCicada。
今回、松竹の秋田周平プロデューサーと、Cicadaで作曲とピアノを担当するJesy Chiangに、楽曲に込めた思いや、コロナ禍での制作秘話、影響を受けたという日本の音楽について聞いた。

― 楽曲提供のオファーを受けた時の感想はいかがでしたか

Jesy Chiang :
楽曲提供のお話しをいただいた時は、すごくびっくりしました。嬉しい気持ちもありつつ、海外からのオファーは初めてだったので、すごく緊張しました。石川監督の「蜜蜂と遠雷」は台湾でも上映されていて、メンバーと観に行ったのですが、とても好きな作品だったのでご一緒できることが嬉しかったです。「ある男」のテーマはとても繊細で、自分がそのような音楽をやりたかったということもありますし、私は本の編集もやっているので、小説が原作の映画に携われることも嬉しかったです。

― コロナ禍での楽曲制作ということで、リモートで作業されたそうですが、苦労された点を教えてください。

秋田周平プロデューサー:
元々、今までの楽曲がこの作品に合うと感じてオファーさせていただいているので、Cicadaさんらしさを出して欲しい、という話を前提に、細かいテーマについて打ち合わせを行いました。
最後のレコーディングも、演奏・録音している台湾とリモートで繋ぎながら監督にチェックしてもらうなど、コロナ禍ならではのやり方でしたが、 Jesyさんが監督とそれまでに細かくやり取りしてくれたたのでとても良い音楽になったと思います。

Jesy Chiang :
今回のリモートでの制作では、監督がシンプルな言葉ではっきりと、伝えたいことや欲しい音楽を伝えてくれたので、やりやすかったです。対面の打ち合わせであればお互いに話す時の気持ちを把握しやすいですが、石川監督の場合はリモートでも分かりやすく意思を伝えてくれました。打ち合わせ中に監督が編集画面を見せてくれたので、シーンごとの音楽もぴったりはめることができました。
劇中に、大祐が倒れるシーンがあるのですが、そのシーンの音楽の入れ方は何回も話し合いました。元々は倒れた瞬間に音楽を入れることを考えていたのですが、監督から「少し間を空けて音楽を入れた方が、大祐の心境を観客に想像させることができる」ということで、役者さんたちの繊細なお芝居が引き立つように工夫しました。

― そうして完成した楽曲について、とくにこだわった点など教えてください

Jesy Chiang :
監督からは「一番欲しいのは、Cicadaらしい音」だと言われました。今回の楽曲は“他人の人生を生きている”というテーマなので、二つの音をあえて7度ずらして使い、他人なんだけどまだ自分が残っている、ということを意識して作りました。

― 完成した映画をご覧になっていかがでしたか。とくに注目すべきポイントがあれば教えてください

Jesy Chiang :
制作中に何回も映像は見ていましたが、初めて完成版を見た時はすごく感動して、映画の世界に入り込んでしまいました。今までも映画の仕事はしてきましたが、観終わってから2、3日も余韻が残るのはこの映画ならではのことで、キャラクターごとの日常的な部分もすごく共感できるものがありました。役者さんたちの目線のぶつかり合いなど、繊細な演技も注目すべき点だと思います。

― 先日登壇された台北金馬映画祭で初めて監督とお会いしてみていかがでしたか

Jesy Chiang :
リモートでやりとりする中で、とても親切な方のイメージがありましたが、
そのイメージ通りすごく親切な方でした。一緒に食事をした時も、
アウトドアの話題で盛り上がりました。監督はサーフィンをされるということで、
バイオリンを担当しているメンバーもサーフィンが好きなので共通点がありました。

― 普段、インスピレーションはどのような物事から得ることが多いでしょうか

Jesy Chiang :
Cicadaの初期は、個人の経験や活動など自分の物語をベースに音楽制作をしていたのですが、この3、4年は大自然からインスピレーションを受けることが多く、メンバーで海へ行ったり、最近は山にも登ります。
(日本の山や海に行ったことがありますか?)石垣島に行きました。富士山も登ってみたいです。

― 好きな日本のカルチャーを教えてください

Jesy Chiang :
台湾では小さい頃から日本の音楽に触れているので、特にこれというのが難しいのですが、学生時代はL’Arc〜en〜Cielが好きでした。今は、坂本龍一さんが好きです。映画は、是枝監督の作品が好きでよく観ます。菅田将暉さんのドラマ「コントが始まる」は、芸人を目指す話ではありますが、私たちアンサンブルの活動にも通ずる点があるので共感できる部分が多く、第一話から泣きながら見ていました。

― 劇中では、別人の人生を生きた「ある男」について描かれます。もし別人になれるとしたら、どんな職業につきたいですか

Jesy Chiang :
ビジュアルアーティストとして活動してみたいです。大学院ではビジュアル芸術を専攻していました。キキ・スミスという芸術家の作品がすごく好きなので、卒論も彼女を取り上げました。

― 今後どのような活動をしていきたいですか

Jesy Chiang :
来年の頭に新しいアルバムが発売されます。日本が大好きなので、来年は日本でライブをやりたいとメンバー全員で願っています。

Cicada(シカーダ)【プロフィール】

作曲とピアノを担当するJesy Chiangを中心に結成された室内楽アンサンブル。人々が、セミを形ではなく音によってその存在を知ることから、 この名前が付けられた。過去3回の来日や中国、ロシアでのツアー、台湾でも数多くのフェスティバルに出演する人気を誇っている。2010年にÓlafur Arnaldsのライヴのオープニング・アクトとしてでデビュー、ファーストアルバムが台湾で大ヒットを記録し、いくつかのリリースと共に瞬く間に台湾で最も勢いのあるアーティストに成長。2015年に「Ocean」でFLAUよりワールドワイド・デビュー。翌年にはグループの初期作をまとめたコンピレーション「Farewell」をリリースし、初来日ツアーも成功を収めた。台湾の愛する海と地上の生命に捧げたというアルバム「White Forest」と2回目となる来日ツアーを挟み、結成10周年を記念した新作アルバム「Hiking in the Mist」をリリース。台湾のグラミー賞ともいわれる金曲獎 Golden Melody Awardsのベストアルバムプロデューサー賞にノミネートされる。今年11月にPIANO ERAで久々の来日。同月公開の平野啓一郎原作・石川慶監督の日本映画『ある男』の音楽を務める。


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