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破門 ふたりのヤクビョーガミ

PRODUCTION NOTE

直木賞作品の映画化がスタート!

撮影風景

2014年7月、『ソロモンの偽証』の撮影をしていた佐々木蔵之介と、本作の秋田周平プロデューサーの雑談中に、一冊の小説が話題になった。それは、その頃ちょうど直木賞を受賞した黒川博行の「破門」。『超高速!参勤交代』で人情味あふれる殿様を演じた佐々木がイケイケやくざの桑原を演じたら面白いのでは!と考えた秋田は、すぐさま原作権をおさえるため出版社へ。佐々木=桑原を軸に、キャストをすべて関西出身者で揃えることをプレゼンし、十数のオファーがあった映画化権を見事獲得し、企画はスタートした。 監督として白羽の矢が立てられたのは、大阪出身でしっかりとした演出に定評のある小林聖太郎。秋田から原作を渡された頃、小林監督はちょうど黒川の原作「煙霞-Gold Rush-」のWOWOW連続ドラマWでの映像化に取り組んでおり、一年間に二作品も同じ原作者の作品を任されることに何かの縁を感じずにはいられなかったという。

疫病神シリーズ第5弾『破門』を映画化する苦悩とは?

撮影風景

しかし、監督の小林は、映画化を進めるにあたって根本的に二つの“問題”に悩まされたという。ひとつは、「破門」が“疫病神シリーズ”の第5作であるため、桑原と二宮の関係性がすでに出来上がっているということ。そして、長編小説だから成立している複雑で長大なストーリーの、どの部分を切り取って描くべきかということ。映画としては、二人の関係が始まるところを描くべきだという意見もあったが、結局は、ふたりがすでに腐れ縁状態というところから始まる「人間として未熟な二宮が、死ぬほど嫌いだが(男としては自分より腹が据わっていると認めざるを得ない)桑原を助けに行くまでの話」として組み直した。 もう一つのハードルは、大金を巡り、人物や組織が複雑に入り組んだ、情報量の多い話をどこまで噛み砕いて説明するか。「映画詐欺や白地手形の仕組みなどは、どんなに説明してもわからない人にはわからないし、尺がどんどん長くなってしまう。そこで、桑原と二宮の目的がなんなのか、誰を追いかけているのかさえわかればいいと割りきり、情報や解説よりも、観客が寄り添うふたりの気持ちの流れを大切にしました」(小林監督)。 こうしてオリジナルの要素も加えた脚本が出来上がった頃、ちょうど放送されたのが「煙霞-Gold Rush-」の第一話。それを視聴し、「あの原作をよくぞここまで昇華してくれた」と満足した黒川は、直接会いに行った小林監督に「監督に全部任せるわ」と男気あふれる一言を発したという。

桑原と二宮の凸凹コンビがスクリーンに見参!

撮影風景

「高級スーツに身を包んだ桑原は、一見しただけではヤクザには見えませんが、態度や声、眉尻の傷、眼光の鋭さなどから、カタギではないことがわかる。そういうヤクザ像を、蔵之介さんと作っていく作業は面白かったです」と小林監督は振り返る。 桑原のパートナーとなる二宮を演じる俳優に対し、小林監督が出した絶対条件は「30歳前後」「大阪弁のネイティブスピーカー」「主演を張れる力の持ち主」。それを受けて秋田プロデューサーが提案した俳優が、横山裕だった。「二宮はヤクザではないがグレーな仕事をしている ぐーたら貧乏。ダメなヤツな一方、共感も得られなければならない難しい役どころ。絶大な人気を誇る関ジャニ∞の横山さんならイメージしやすいですし、蔵之介さんとのコンビが面白くなりそうだなと思いました」(秋田)。横山について小林監督は「未熟でへたれな部分と、芯の強さと反骨心を持ち合わせている二宮のキャラクターを、肌で理解して、自分からアイデアを提案しながら演じてくれました」と賞賛する。 そんなふたりは、本読み段階から息もピッタリ 。それを見た監督は、佐々木と横山に「絶対に、相手をバディだと思わないようにしてください」という言葉をかけていた。なぜだったのか、問うと「息が合いすぎて、コンビものの刑事コメディのように感じられたんです。ふたりは一緒に行動しているけど、たまたま金銭的社会的利害関係が一致しただけで、心地よい関係でありたくはなかったので。もちろん物語の後半、一瞬だけ本当の“きずな”が生まれ……かける瞬間はあるんですが」(小林)

現場を和ませたのはあの重鎮

撮影風景

日本を代表する俳優たちの競演も本作の魅力の一つだ。橋爪功、國村隼、キムラ緑子といった重鎮でありながら常に新しい役に挑み続ける役者から、多くの主演作を持ち人気・実力を兼ね備える北川景子、バラエティやグラビアで大忙しの橋本マナミ、一癖ある役をやらせたら天下一品の木下ほうか、舞台でも活躍する演技派女優の中村ゆり、多彩な才能を持つ宇崎竜童、そして小林監督作品に毎回怪演を繰り返すツチノコ芸人テントまで出演シーンが決して多くないにも関わらず、次々とOKの返事が届いたという。その理由は、原作の魅力、制作側の熱意、脚本の出来の良さが伝わり、小林監督に対する期待値の高さなどが重なったこと。そこに、若手有望株の矢本悠馬と、ジャニーズWESTの濵田崇裕が加わり、なんともバランスの良い、贅沢なキャスティングが実現した。 監督はOKと撮り直しのジャッジが早く、リテイクの意図も明快。撮影の浜田毅らベテラン技術陣のサポートもあり、撮影は非常にスムーズに進んだ。 現場でムードメーカーになっていたのは、小清水という愛すべき小悪党を楽しみながら演じた橋爪功だったという。銀行から逃げ出すシーンでは、前日に「明日、絶対に走らないから! 年だから走れないから!」と宣言したうえで、本番では全力疾走。「昨日のあれは前フリですか!」と現場に大爆笑が巻き起こる。監督に対しても、「次の作品でも呼んでくれ」と声をかけるほど信頼を寄せていた。

向きあえば向き合うほど関西弁は多彩で奥深い

撮影風景

秋田プロデューサーは、「黒川作品の面白さを実写化するには、ニセ物の関西弁では無理」と考え、ほぼすべてのキャストを関西出身者で固めた。一方、監督は「極端に言えば、方言はひとりひとり違うので、すべての人を満足させるのは無理なんです。だから、『これは絶対に言えへん』という言い方を排除していきました。あとは、原作にある書き言葉としての大阪弁を、自然な話し言葉にどう落としこむか、に気を配りました。とはいえ自然なだけでは面白くないので、『性根がない』など残したものもあります」(小林監督)。 事前に方言テープを準備したのは、兵庫出身の北川景子と、京都生まれだが幼少時代に東京に引っ越した宇崎竜童、そして山形出身の橋本マナミ。北川に対しては誰も不安視していなかったが、神戸弁と大阪弁には微妙な差があるからと、北川が自ら方言テープの用意を希望した。彼女の完璧主義の一面が垣間見える。 また、関西出身といってもほとんどのキャストは東京暮らしが長いため、標準語に引きずられることも。キャスト同士で「あれ?」「今のおかしない?」など、確認しあうことがあったとか。 また、銀行で「大丈夫ですか?」と声をかけられるシーンでの、小清水が言う台詞「べっちょおまへん」は、橋爪のアドリブだ。監督は「これは『別状ない』が『別状おまへん』を経て『べっちょおまへん』となった、あの世代の関西弁ですね。聞く分にはわかりますけど、僕らも言わないです」と笑う。

向きあえば向き合うほど関西弁は多彩で奥深い

撮影風景

大阪で生まれ育った上、半年前に大阪、神戸で撮影していた小林監督は、今回も黒川博行作品の魅力であるリアリティ溢れる舞台設定を活かすべく、様々なロケーションを選び抜いた。 二宮の事務所は、原作通りアメリカ村の外れで見つけたが、目の前の道路が交通量が多いため、事務所前に駐車した桑原の車でのシーンは、一般車輌を捌きやすい大阪市内の駐車場にグリーンバックを張って行なった。キャスト達は「せっかく大阪に来てんのになんでグリーンバックやねん」と苦笑しながら撮影したが、落ちついて芝居を撮ることを優先。もちろん背景はアメリカ村で撮影したので、仕上がりは言わなければ分からないものになっている。 木下ほうか演じる初見たちとの取引シーンでは、あべのハルカスの展望台がロケ場所に選ばれた。原作では梅田のグランフロントに入っている書店の中での取引だったが、人が集まる商業施設で画になる場所、ということで様々な場所をロケハンし、最終的にはハルカスの展望台に決めた。撮影時には8mのクマのキャラクターがサンタの格好をしていて撤去するのは難しいことがわかり、美術部は秋を感じさせつつクマを隠す手立てを考えなければならなかった。ちなみに窓にあるNの文字も美術部の作り物なので、実際のハルカスには存在しない。 小清水が潜伏するマカオで桑原がカジノをプレイするシーンを、秋田プロデューサーは現地で撮影する方向で各所と調整をしていた。しかし、最終的には「カジノをマネーロンダリングに使う」という描き方が原因で、政府やカジノホテル側の撮影許可を得ることができなかった。ホテルからはVIPルームを貸しきっての撮影ならば可能だと提案されたが、やはりカジノのシーンで欲しいのは、広いカジノ場を引きで撮ったショットのため、マカオでは実景だけを撮影し、カジノ会場は国内のホテルで再現することを決意。日本カジノスクールの協力のもと、マカオにこれからオープンする新しいカジノを参考に、最新のカジノのマシンや小道具などを設置した。そして、国際色豊かなエキストラとともに、今のマカオのカジノの雰囲気を臨場感たっぷりに再現することに成功した。ロケハンでマカオを訪れたあるスタッフが、カジノで失った8万円も無駄ではなかったということかもしれない。

音楽へのこだわり

撮影風景

劇伴は、監督の希望で、ソウル・ファンク系のテーマ曲をグランド・ファンクチームの後関好宏と會田茂一に、二宮の心情につけるための弦パートを、きだしゅんすけに依頼した。また、原作で桑原がカラオケで英語の歌を歌う描写を踏まえ、小林監督は桑原が好きな歌を、脚本を作りながら聞いていたManhattansの「There's no me without you」に設定した。その理由を、「夜がないと星は見えない、悪がないと善は存在しないという歌詞の内容が、この映画全体を示すことになっているから」と説明する。 実はカラオケにほとんど行ったことがない佐々木は、カラオケで歌う特訓をしてから撮影に挑んだそうだ。これもまた注目シーンの一つとなっている。