住野よる×奥平大兼

存在はフィクション、感覚はノンフィクションの京くん

京くん役が奥平大兼さんと知った時、どう思われましたか?

もともとキャスティングに関しては、失礼ながら僕自身が俳優さんたちにあまり詳しいわけではなかったので、ピッタリな方たちをお願いしますぐらいしか言っていなかったんですね。京くん役の奥平さんについては、プロデューサーさんから、どんな役でも演じ分けられる俳優さんを連れてきましたと聞きました。

うれしいです。

最初にいただいたのが、すごくカッコいい写真で。京くんって自分がイケてないと思っている少年なんですが、プロデューサーさんが絶対に京くんに合っているとおっしゃったので、楽しみにしていました。

本作のオファーが来た時、どう思われましたか?

原作を読ませていただいて、僕が学生時代に思っていたことや、感じていたことが描かれていました。5人の登場人物にも共感できて、自分から歩み寄れたので、是非京くんを演じてみたいと思いました。少し変わった記号が見えるというのも、僕が今まで生きてきた感覚とそこまで変わりなく受け入れられたのが、逆に面白かったという印象があります。

脚本へのご感想も教えてください。

僕は脚本を読むときは基本的に、自分のパート以外のところは読まないんです。原作を読んだ時は、パラとヅカがホテルで話すシーンかすごく好きで、気になってはいたんですが、映画を観るまでとっておこうと思いました。京くんの反応も、ミッキーがどう来るのかによって変わるだろうなと思っていたので、そこも楽しみでしたね。台本に空欄が結構あって、自由に演じてみていいということでしたので、日常生活の延長のような撮影ができたと思っています。

ご自分のパート以外は読まない理由は何でしょうか?

特に理由があるわけでもないんですけれど、役のその子からすると、知らない事実もあるじゃないですか。だから、別に知らなくてもいいかなと、単純にそんな感じで思っています。今回は原作を読んでいたので、こういうことが起こるというイメージはありました。

どういう風に演じたいと考えていましたか?

原作を読んだ時、物語はフィクションではあるのですが、登場人物たちの感覚がフィクションではないと思いました。だから、お芝居している時に、台本のことや見え方のことを気にすると、ミッキーやエルと話している時に、京くんとして感じることを、素直に感じられなくなるかなと思ったので、できるだけ何も考えずに、でもそれぞれの役に対しての想いはきちんと持ちつつ、ということを意識しました。

原作にも書かれていない、ミッキーが京くんを好きになる理由

奥平さんと初めて会われた時や撮影現場で、何か発見はありましたか?

撮影を一度見学させていただいた時に、服装も雰囲気も含め、完全に京くんですごいなと思ってて。その次にお会いしたのが取材の時です。自分の中に京くんである奥平さんが入っていたので、お会いしたら取材用のキラキラした奥平さんだったからギャップがあって、素直にカッコいい!と思いました。

恥ずかしいですね。撮影が終わってからかなり時間が経っていたので、ギャップはあったかもしれません。

完成した映画を観て、京くんの印象はいかがでしたか?

奥平さんが京くんとして、この作品の世界観を作っていると思いました。

うれしいです。

原作ではミッキーが少し変な奴だというのは、少しずつわかっていくんですが、映画ではそれをキュッと短くしたシーンで伝えなければいけないじゃないですか。奥平さん演じる京くんのミッキーへの一つ一つのリアクションで、ミッキーがちょっと変な奴だということがちゃんと速いスピードで伝わってきて、これは完全に奥平さんのお力だなと強く感じました。

安心しました、ありがとうございます。

原作では京くんは結構中性的に書いているんですけれど、奥平さんが演じる京くんを観て、そりゃそうなんですけれど、京くんって男の子なんだよなと思いました。

ハハハハハッ。確かにそうですね。

途中で諦めかけ、皆に助けられながらも、最終的にミッキーと仲よくなりたいという目標に向かって行動する姿を見ていて、京くんが男の子としてすごくかわいく見えてきて、原作の読者さんも、ハッとさせられるんじゃないかと思います。

僕も原作を読んで、相対的に見ると中性的な感じなのかなと思って、最初は声を高くしようかなと迷っていました。だけど、ヅカやクラスの子たちの自然な雰囲気を見ていると、なんかそうなれなくて。技術的なことに力を入れると、本来感じるべきことが感じられなくなるような気がして、クランクイン初日でやめようと思いました。

原作にも書いていない“ミッキーがなぜ京くんを好きになるのか”というメッセージを、撮影前に奥平さんに送らせていただいたんです。他の4人にもそれぞれ違う手紙を送ったのですが、奥平さんあてが一番長くなりました。手紙に書いた内容を映画から感じられるような気がしました。

いただいたメッセージを意識しながら演じました。今考えると、もし受け取っていなかったら、また少しテイストが変わっていたかもしれません。住野さんのお手紙の影響は大きかったと思います。

奥平さんのおかげで、ミッキーが京くんを好きになる意味が、きちんと伝わる作品になったと思います。

ありがとうございます。中川監督もきっと演出する時、それを考えていたんじゃないかなと思っていて、ちょっとした回想なんかに、京くんの優しいところが映ったりするんです。敢えて大々的に京くんのさりげない優しさを強調するのではなく、自然に感じるように描かれているので、観てくださる方にもゆっくりと感覚的に伝わるのではないかと思います。

さりげないのに、いつまでも心に残る数々のシーン

京くんでお気に入りのシーンはどこですか?

えー難しい。何だろう……あ! 映画の冒頭で、京くんが教室で座っていて、初めてビックリマークが出るシーンがあるんですよ。ミッキーの頭にパーンと出るんですけれど。その「!」がプワーっと飛んできて、京くんが鉛筆でポンと弾くシーン。あれは現場で、そういうことできるんですかと聞いたら、できますよってなって、じゃあやってみたいですとお願いして撮りました。チョンとするのがかわいらしくて、好きなシーンです。

奥平さんのアイディアということですね。

そうですね。CGで「!」を動かすのは、大変だったかもしれません。

僕のお気に入りも本当に何気ないシーンなんですが、京くんが座っている横でヅカが机に座ってエアドラムしていて。おそらく京くんが何のバンドか当てようとしているのかな。そこが本当にいい意味で、ただの友達みたいで、グッとくるんですよね。そんな京くんをミッキーが見ているというところも含めて、いいシーンでした。

あれは、アドリブですね。(佐野)晶哉自身がドラムをやっているから。全然役と関係ないからこそ、自然な雰囲気だったんだと思います。なんか懐かしい~。

かわいいんですよね、2人が。

本当の学生みたいですよね。

京くん以外で、好きなシーンはどこですか?

原作から好きだったパラとヅカが2人だけで話すシーンですね。あとは、ヒーローショーの前日に、ミッキーとパラが体育館で話しているシーン。夕暮れの中、だだっ広いところで2人っきりで、ダラダラ喋っていて。まさに青春という感じでした。ああいう時間って学生時代にしか訪れない。台詞の言い方や空気感に懐かしい気持ちになりました。

京くんを演じて、自分の中に「京くんっぽい部分」は残っていると感じますか?

たぶん、もとからあります。学生時代に、京くんほどではないかもしれないけれど、言いたいことを言えないことへのもどかしさはありましたし、それは今生きていてもあります。でも、僕は学生の頃、わりと明るかったので、そこは少し違いますね。

かつて5人のような悩みを抱えていた大人たちへ

観客の皆さんに何を感じ取ってほしいと思いますか?

この映画に出てくる5人には、いろんな悩みがあり、いろんな選択があります。面白い作品になっていますので、物語を楽しんでほしいと思いますが、5人の行動や言葉は決してフィクションではないと思うので、たくさんのことを感じ取ってほしいです。

原作ではもともと「あなたはあなたのままでいい」ということを根底として書きたかったのですが、映画版でも京くんはラストに向けて変化するわけではなく、京くんのままで周りの皆から自分のよさに気づかせてもらいます。10代や20代の若い方たちは、自己嫌悪を募らせることもあると思うので、この映画を観て、自分を掘っていいところを探すような気持ちになってくれたらいいなと思います。

確かに。最初に原作を読んでびっくりしたのが、今の学生の気持ちに近いことを書かれているということでした。世代によって違うと思っていたので、何でわかるのか、住野さんに聞きたいなとずっと思っていました。

明らかな大人である僕が書いたものを、そんな風に感じてくださっているのが、非常にうれしいです。8年前に書いた小説ですが、10代の人たちとお会いする機会なんてまあないんですね。自分の中で何か作用しているものがあるとすれば、10代の人たちからお手紙をいただくんですけれど、そこで自分の悩みや想いを書いてくださるので、それがもしかしたら作品に入っているのかなと思います。

でも、それも8年前なんですよね。案外変わらないものなんですかね。どうなんだろう。最初、僕の年代で感じるようなことに近いなと思ったので、先ほど言った通り驚きました。何か今腑に落ちました。

皆繰り返しているのかもしれないですね。

もしかしたらそうなのかもしれないですね。5人と同世代の人たちに観てほしいのはもちろんですが、大人になって若い頃の気持ちを忘れてしまって、若い人たちに対する理解度が低くなった大人の人たちにも観てほしいです。若い世代の気持ちを知ることができる作品になっていると思います。知ったからなんだと言われるかもしれませんが、でも知ったからできる行動や、言える言葉があるのではないでしょうか。

奥平さんがおっしゃるように、この映画の5人が抱えているようなことに直面している子たちだけではなく、かつて直面していた大人たちが観て、共感が高まればいいですね。それが、ほんの1ミリでも世の中にいい作用を起こせればと思います。

そうですね。小さなところに現れますからね、そういうのは、きっと。

この機会に、お互いに聞いてみたいことはありますか?

普段どんな音楽を聴かれるんですか?

クラシックですね。幼い頃にピアノを習っていたので。でも、ロックも好きですし、わりと広いジャンルを聴きますが、一番はクラシックですね。

佐野さんがブログで一緒に聴いたと書かれてましたね!

あの日はジブリ映画の曲にしようとなって、久石譲さんを聴きました。子供の頃にジブリ映画を観ていたのですが、今改めて聴くと、偉大な作曲家だと思います。最近は北野武監督の『HANA-BI』のテーマ曲にハマっていて、かなりリピートしています。何度聴いても奥が深くて、ロックにも通ずるものがあって興味深いです。

聴いてみます。確かに映画内では聴くけれど、それ単体では聴いたことないかも。

またちょっと違う感覚になって、面白いと思います。住野さんは、何を聴かれますか?

僕はバンドが好きで、趣味がライブハウスに行くことなんです。自分の映画の主題歌を務めてくださった、Mr.Children、sumika、BLUE ENCOUNTは3組とも大好きです。

自分の好きなバンドが主題歌を担当してくれるなんて、素晴らしいですね。今回は、ちゃんみなさん。映画にぴったりの曲でした。ちゃんみなさんのこれまでのイメージとも、いい意味で違いますよね。

バンドが続いたので、読者さんたちも今回は予想外だと思うし、本当に良い出会いです!

住野よる×出口夏希

バカかわいいミッキー

ミッキー役が出口夏希さんと知った時、どう思われましたか?

申し訳ないことに出口さんのことを存じ上げなかったのですが、一度認識すると、あちこちでお名前を見るようになりました。まさに日常の中に出口さんがおられて、とにかくすごい方なんだなと思ったのを覚えています。

本作のオファーが来た時、どう思われましたか?

お話をいただいてから原作を読んだのですが、こんなキラキラしたミッキーを演じさせていただくことが、まずうれしかったです。『君の膵臓をたべたい』の映画も中学生の時に観に行っていたので、その原作の住野さんの作品に出演することに感動しちゃいました。

原作へのご感想を教えてください。

「言葉に出そう! 気持ちを!」と思いました。

どんな風にミッキーを演じたいと考えましたか?

小説の中の人を演じることが、本当に毎回怖いというか、皆さんが思っていることと解釈が違っていたらどうしようと思っていて、クランクインする前にも悩んでいました。そしたら、住野さんにお手紙をいただいて、最後に「バカかわいいミッキーを演じてください」と書いてくださっていて、その言葉で不安がなくなりました。でも、心の底から楽しんで笑わないとたぶん伝わらないと思うから、とにかく楽しんでその場を過ごしていこうと思いました。お手紙のその一言で、どう演じたらいいのか答えをいただけた気がして本当にありがたかったです。ただ、私へのお手紙は、皆より短かった(笑)。

短くて、しかも「バカ」なんて、言い過ぎかなと思ってたけど、それがいい方向にいっていたならよかったです。

「バカかわいい」という言葉が、とてもわかりやすくて。

住野さんにとってミッキーはどんなキャラクターですか?

スーパーヒーローというか、難しく考えず単純に誰かを助けられる人だと思っています。男女問わず誰から見ても、こうあれたらいいのにと思わせるのがミッキーかなと自分では思っています。

住野さんの考えているミッキーと違ってなくてよかったなと思いました。

大人気の体育館のシーンの撮影は……

出口さんと初めて会われた時や撮影現場で、何か発見はありましたか?

最初にお会いした時、撮影途中だったので、たぶんミッキーに入られていたんだと思うのですが、立ち方がミッキーそのものだと思いました。

どんな立ち方してました?

僕の記憶では、両手をゆらゆらさせながら。

それは、出口夏希もやります(笑)。どのシーンもお芝居の中で自然とでてきた動きがすべて自分の中でしっくりきていました。ベッドに飛び込んだり、頭を抱えたり、腰に手をあてたり、動きを頭の中だけで考えないでその時に出てくるものを大事にしたいと思っていました。みんなで登校するシーンで、ヅカとじゃれ合うところも、撮っているうちに自然と出てきたものでした。

ある意味、出口さんのドキュメンタリーなところも?

どうなんだろう。私が演じているから自分と似ていると思うのか、どっちが自分でミッキーなのかもわからなくなってきちゃって。(笑)でも心地よく演じれたなと思っています。

完成した映画をご覧になって、ミッキーの印象はいかがでしたか?

ミッキーは作中で太陽のような存在と言われているのですが、本当に出口さんがずっと太陽のようなパワーを放ってスクリーンにおられるのが、すごいなと思いました。

うれしいです!

ミッキーとパラのシーン、どれも最高でしたね。体育館のシーンも大好きです。

奥平さん佐野さん、早瀬さんも好きだと言ってくれました。あのシーンの撮影が始まる前、菊池さんと2人でずーっと無言でボーっとしてたんです。静かだけど気まずくもなく、お互いに気を遣って視線を交わすこともなく。その状態から、「よーい、スタート」で自然に台詞に入っていきました。本当にあの学校で学生生活を送っているような気分で、パラとミッキーの関係性がそのまま現れたシーンになっていました。それが伝わっているようで、よかったなと思います。

登場人物と自分自身の境界が曖昧になる瞬間があったと、他の出演者の皆さんもおっしゃってましたね。5人のオフショットを見ても、本当に仲良さそうに楽しそうにされていて。

そうなんですよね。こんなに居心地よく自分らしくいれる作品ってなかなかないので、「この役は私にピッタリなんだ!」と思って日々過ごしていました。

それが画面にも、よく出ていましたね。

泣いちゃうシーンと、笑わされたシーン

他にも、ミッキーのお気に入りのシーンを教えてください。

最後に図書館でエルが見守る中、京くんと向き合って筆記でやり取りするシーンですね。今までのミッキーとは違った印象のシーンだったので、すごくよく覚えています。

あのシーンはね、泣いちゃうんですよ。

住野さんが泣いたって言ってくださったら、もう安心です!

ミッキーはヒーローショーのところでの落ち込みはあるけれど、基本的にずっと元気で、あっけらかんとしているのですが、唯一あのシーンでは京くんだけでなくミッキーの切実さも出ていて、すごくグッときました。

よかった~。ミッキーとして京くんに対して、「なんか言ってよ。どうなの?」とずっと思いながら見つめていました。あのシーンは、もどかしい、もどかしい。皆さんには目力が強いと言われました。

プロデューサーさんから聞いたんですが、最後の京くんに告白されて笑うところは、実は告白を聞いて笑っているんじゃないんですよね。

はい、そうなんです。

スタッフさんたちが書いた出口さんのかわいかったところを奥平さんが読み上げて、それについ笑っちゃったシーンだと聞いて。確かにめちゃくちゃ自然な笑顔でした。

笑っていいのかわからなかったのですが、お芝居が続いていたのでこれ、笑わせにきてる?と。私的には京くんの告白に感動するつもりだったのですが、そんなことはさせてくれなかった(笑)。

全くのサプライズだったんですね。

はい、そんな予兆もなく、びっくりしましたね。もう笑いが止まらなくて!

ヒーローは、出口夏希だよ

ご自身以外で、お好きなシーンはどこですか?

シーンというより、一人一人のキャラクターが好きなんです。エルは京くんにミッキーを追いかけるよう、「行って」と言うあの表情が好きですし、ヅカは京くんがミッキーのことを好きだと気づいた瞬間のあの表情、パラはパラでずっと魅力的だし、京くんはあの誠実さが全面に出ていて。4人のことが、本当に好きになりました。

苦労されたシーンはありますか?

ヒーローショーのシーンかな。アクションが、思った以上に大変でした。

本番は一発で決められたと聞いています。

私も皆さんも疲れてきちゃって、それで間違えるわけにはいかないという状況も感じていたので、たぶんスイッチが入ったのかな、たまたまです。(笑)

そこで決めるのが、ヒーローですね。

そうですね。じゃあ、ヒーローです!(笑)

原作者としては、ヒーローショーをここまでちゃんとやってくれるのかとうれしかったです。小道具も準備しているところから机の上に散らばっていたりして、相当作りこまれていました。ミッキーのヒーロー姿かっこよかったですね。

敵役の人たちも一緒に、何度も練習しました。飛び蹴りなどもあったので、足がバッキバキでしたもん。

それもまた青春っぽくていいですね!

演じ終わった今も、出口さんの中に「ミッキーっぽい部分」は残っていますか?

今回ミッキーを演じるにあたって、喜怒哀楽の色々な表情を、すべて笑顔で演じたのですが、普段の私も笑顔で表しちゃうところがあるかもしれないと思いました。でも、ミッキーより私の方が、もうちょっとクソガキかもしれないです(笑)。

学生世代はもちろん悩める大人にも届けたい

どんな方に、何を感じ取ってほしいですか?

5人の登場人物と同じ学生さんたちに観てほしいのはもちろんですが、何か悩んでいる時の一つの解決の助けになれるお話しでもあるなと思っているので、学生さんたちはもちろん、色々な世代の方に観てもらいたいですね。観る人によって捉え方も感じ方も違うと思いますが、取材してくださった男性の方も涙が出たとおっしゃってました。

大人たちもきっと、同じことで悩んでいた時期があったんだろうと思います。それが形を変えただけで、大人たちの今にもふりかかっている問題が、この作品の中にはあると思うので、出口さんにおっしゃっていただいたように解決の一助となればいいですね。そして、この映画を観て、ミッキーに恋する人がたくさん現れてほしいなと思っています!

ミッキーに恋した人、誰かいますか~? (笑)5人とも全く違うタイプじゃないですか。皆さんどのキャラクターがタイプなんでしょうね!今回ミッキーを演じられてもちろんうれしいのですが、原作を読んだ時、パラがカッコよく見えて、パラも素敵だなって思っていました。

この機会に、お互いに聞いてみたいことはありますか?

どうしたら、物語が思い浮かぶんですか? SNSのコメントを見ていたら、皆さんも同じことを言っていて。どのように過ごしてきたら今回の作品のようなお話が出てくるのかなって。私も気になります。

僕はまず、やりたいことを一つ決めます。本作だったら、能力があるけれど、それは特別なことじゃないと。そこから枝葉を広げていくように話を作っていきます。あとは、僕は小説としての出来の良さよりも、登場人物たちの人生を優先しています。この作品だと、あの5人がどういう風に生きているのかと、日々散歩などをしながら考えています。そうやって、出来ていくという感じですね。

だから、あんなにも一人一人が魅力的なんですね。先生の愛がいっぱいこもっているんだなと思いました。

5人のことが大好きなんです。

私も大好きです。

ありがとうございます。あの子たちのことを好きになってくださって。僕からの質問です。出口さんは『クレヨンしんちゃん』映画の大ファンって聞きました!一番好きな作品は何ですか?

一番難しい質問かもしれないです。全作を何回も何回も観ているのですが、一番よく観ているのは『踊れ!アミーゴ!』1ですね。『栄光のヤキニクロード』2の食べるシーンも好きですし、『爆発!温泉わくわく大決戦』3も。難しいっ。でもやっぱり『踊れ!アミーゴ』かな。

僕も大好きなんですよ。夢が『クレヨンしんちゃん』映画の脚本を書くことなんです。

待ってください!私の夢も、『クレヨンしんちゃん』の中でキャラクターを作ってもらうことなんです!

そして、熱いクレしん談義は続く……。

1 クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!(2006)
2 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード(2003)
3 クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦(1999)

住野よる×佐野晶哉

ヅカは……自分でした

ヅカ役が佐野さんと知った時、どう思われましたか?

怖い質問だ。

映画を作ろうという話をプロデューサーさんとしてから8年かかっていたんですけれど……。

そんなに!

ヅカはどんな人がいいですかというお話をいただいた時に、僕の作品の中では珍しく、すっごいカッコいい男子という描写があるので、めっちゃイケメンをお願いします!と言いました。

そんなオーダーだったんですか。

それで、佐野さんにお願いしようと思いますと、プロフィールと顔写真をいただいて、お願いした通りだなと。

よかった!

男性アイドルの方とお仕事をするのは初めてでしたので、どういう感じの方なんだろうと、すごく気になっていました。

本作のオファーが来た時、どう思われましたか?

素直にめちゃくちゃうれしかったですね。すぐに原作を読ませていただいて、僕にこういう役というのが少し意外でした。でも、読んでいけばいくほど、自分がヅカに似ていることに気づいて。学生時代に、ヅカのようなことを考えていたし、先生から煙たがられているようなやんちゃな奴とも静かな子とも、先輩や後輩、先生とも仲よかったけれど、親友と呼べるほどの友達たち以外とは、あまり言いたくないのですが、表面上のつき合いが得意というか。「ほんまは心の底で何を考えているかわからへんよね」と言われることが多くて。広く平等につき合うという意味ではいいところでもあり、一方で嫌なところでもあるんですけれど、そういう自分を肯定してくれる言葉がいろんなところに散りばめられていました。自分の人生をもっと魅力的にしてあげられるような役である作品だと感じて、うれしかったです。この役を、あのキャストで演じられるのかと思うと、ワクワクでした。

おっしゃられてることがめっちゃ、ヅカですね。

住野さんの前で言うのは恥ずかしいんですけれど、すごい自分でした。京くんのような子と話している時は、ああいう言葉の投げ方をするし、悩んでいる子がいたらああいう寄り添い方をしますね。優しさではあるんですが、何を求められているかで動いているような部分がある。子供の頃から大人の方と関わることが多くて、人の顔色を見て生きてきがちな人生だったんで。この人は今こういうことを求めているんだろうな、こういうことを言ったら笑ってくれるんだろうな、こういうことをしたら落ち込むから絶対しないにしよう、と。誰でもそういう一面はあると思いますが、たぶん人よりそういう面が濃ゆいと思うので、「俺や!」となりました。

なかなかそこまでの役には出会えませんね。

最初は、あまり言いたくなかったんです。アイドルというのは、抽象的かつ偶像的な職業でもあると思うので、こういうことを自分で言うのもどうなんだろうと。でも、自分の説明書というか、自分でも説明できていなかったことが、ヅカを通して「佐野はこれやで」と伝えられるような作品なので、さらけ出そうと思って、今は全部喋っています。

佐野さんを応援してるファンの方たちが原作を読んでくださって、ヅカの内面を知って、めちゃくちゃ佐野さんだとおっしゃってるのを見ると嬉しくなります。

ファンの人たちはわかってくれていますからね。

そこまでヅカに内面の親和性がある佐野さんに、ヅカと出会っていただけて、本当にうれしいです。

僕も、出会えてよかったです。

実は一番めんどくさい奴

こういう風に演じたいと考えていた部分はありましたか?

当初は役作りはいらない、「ありのままでええな」と思っていたんですが、中川監督からホテルでパラと対峙するシーンまでは、常に笑っていてほしいというディレクションをいただきました。笑顔が印象的なキャラクターになるように、別に笑わなくてもいいシーンでもなるべく笑顔で。敢えて言い方を悪くすると、貼りついたような笑顔で常に笑っていてと。それを意識していたところに、住野さんからお手紙で「実はヅカが一番めんどくさい奴なのかもしれません」という一文をいただいて、それをかみ砕くのにものすごく時間がかかって、「住野さんは何を伝えようとしてるんや」と悩みました。人の顔色を窺って、誰にでも優しい奴だからこそのクールさというか、中身の見えなさのような部分が、画面越しにめんどくさく映ったらいいなと思いながら、そこと向き合う1か月間でした。

すいません!よけいなことを。

いえいえ、あの一文のおかげで、ヅカへの理解が深まって、ありがたかったです。あの言葉がなかったら、ああいう演じ方はできていなかったと思います、本当に。この一文を一番大事にしなきゃいけない役なんだなということを、かみしめていました。

住野さんにとって、ヅカはどういう人物なんでしょうか?

運動ができてカッコよくて、他のメンバーに比べて能力も一番はっきりしています。喜怒哀楽が見えるという力なので。それでいて、一番苦労人なんです。そこのバランスが取れていないことを、本人も自覚して頑張って生きているところが好きですね。

ライブでAぇ! groupにひとめぼれ

佐野さんと初めてお会いになった時の印象を教えてください。

佐野さんのヅカを観るより先に、Aぇ! groupに出会ってしまって、ライブ見てすぐファンクラブに入りました。

それを聞いて、びっくりしました。

佐野さんが演じてくださるとうかがってから、Aぇ! groupのライブにご招待いただいたのですが、感動して泣いちゃって。最初の印象はスーパーアイドルでした。カッコいい! と思って。それから、CDやDVDを買いました。

ありがとうございます。先・佐野やったんですね、ヅカの前に。

佐野さんのファンの方々が、本作を広めてくださっていて、そんなファンの皆さんの熱量には、まだまだ届きませんが、これからも応援させていただきます。

原作者も感動のヅカっぽい表情とイントネーション

その後、撮影現場に行かれたそうですが、佐野さんはいかがでしたか?

撮影中盤ぐらいでしたね。

現場では、今度はめっちゃヅカだったので、アイドルの時と、ヅカの時の佐野さんに大きな差が生まれていて驚きました。

うれしー。

一緒に「か「」く「」し「」ご「」と「」を作った担当さんが、5人のキャラクターの中でヅカが一番好きで、佐野さんをAぇ! groupで見た時は、「アイドルの方だ」と思ったらしいんですけれど、撮影現場で「ヅカだ!」と。

よっしゃ!ありがとうございます。

完成した映画をご覧になって、ヅカの印象はいかがでしたか?

ヅカっぽい台詞や表情のニュアンスが見事だと思いました。特にパラが「王子様」と言って腕を組んでくる時の佐野さんの表情が、まさにヅカっぽくて、いいシーンだと思いました。

うれしい。パラとの空気感みたいなのは、初日から意識していました。

ヅカのお気に入りのシーンはどこですか?

京くんがミッキーのことが好きだと気づいた食堂のシーンが、自分の中ではヅカっぽく演じられていると思ったので好きですね。

僕は、ラストに教室で話している京くんとミッキーを見て、ヅカがうれしそうに笑うシーンですね。マジで表情の作り方がヅカで。ヅカのこいつ本当はいい奴なんだよと言いたくなる部分が、あそこに詰まっているなと個人的に感じて大好きです。

あの2人が仲よさそうでよかったって、演技を超えて心の底から思ってましたね。

“ヅカの表情”ということは、住野さんの頭の中で、キャラクターは具現化しているのですか?

顔がはっきり見えているわけではないのですが、各々の大事なシーンごとの表情は見えるような感じです。だから、実際には肉眼で見たことはないはずなのに、この顔ヅカっぽいなとか、聞いたこともないのに、このイントネーションはヅカっぽいなと思うところがあって。それが原作者として感動しました。

(胸に手を当てて)本当によかったです。誰に褒められるより一番うれしいです。

俳優人生の中でも特別な瞬間

ヅカ以外で、好きなシーンはどこですか?

ヒーローショー終わりの「ヒーローはパラだったね」と言うミッキーに、「三木ちゃんだよ」と返すパラの台詞が好きですね。すごくストレートだけれど、憧れや敗北感やいろんなことも含んだ台詞だと思うんですが、菊池さんが完璧に成立させていて。あの台詞で住野さんの原作の世界観に1歩近づけたというか、初めて映像で観た時に感動したのを覚えています。

そのパラと初めて本音で対峙する、中盤のクライマックスでもあるシーンはいかがでしたか?

自分の中でも特別なシーンです。撮影1か月の間、あのシーンを演じるためにはどう生きていったらいいかというのを考えて作っていきました。中川監督にわりと早いうちから、「あのシーンよろしくな」とエグいハードルのかけ方をされていて、「いいパラを引き出せたら、ご褒美になんか買ってあげる」と言われていました(笑)。なので、あのシーンの主役は全くヅカではなくて、どんなパラを引き出すかが、僕の役目だとずっと思っていました。

パラは当初、涙は流さない設定だったそうですね。

実はカメラがパラ向きの時、僕も泣きながらお芝居しているんです。それが正解だったか不正解だったかはわからないんですが、あの時の2人の空気感で、菊池さんも涙を流しながらパラを演じていました。その後、カメラがヅカ向きの時の菊池さんのお芝居も、ヅカを引き出すために全然違うお芝居をしてくれて。真に迫ったことを話す優しいヅカを、菊池さんに引き出してもらいました。あのシーンは、これまで10年くらいお芝居をさせていただいた中でも、時空が歪んだというか、自分が誰なのかわからなくなれたような特別な瞬間でした。

これぞっていう名シーンですよね。

あのシーンの撮影の5日前くらいから、菊池さんが僕と話さなくなったんです。撮影当日も全く喋らず、目が合いそうになったらどこかへ行くぐらい役作りを徹底してくれて。それによって生まれた空気感の中で、今思い返しても痺れる撮影でした。あのシーンを演じている時も、ヅカのおかげで自分の性格を見つめ直せました。

(深くうなずく)

「頭の中でどんなに悪いことを考えていても、結局大事なのって何をしたかでしょう」という、原作にはない中川監督の想いが込められた台詞があるんですが、ヅカを演じながら自分の20何年間の人生を見つめ返した後に、あの台詞を言った時、ヅカのことも自分自身のことも肯定できました。その瞬間、きっとこの台詞が届くことによって、たくさんの人が自分のことを、どこか一つでも好きになれる作品になっているんだろうなと確信しました。

佐野さんにとって大切な作品になりましたね。

そうですね、そして何より楽しかったです。とにかく作品ももちろん最高でしたけれど、住野さんのおかげで、あの5人組に出会わせてもらって、本当に感謝しています。

知らなかった自分と出会える映画

どんな方に何を感じ取ってほしいですか?

今、リアルに学生として生きている皆さんに届いてほしい言葉がたくさんあります。もちろん、学校を卒業して社会人として頑張ってらっしゃる全世代にも届いてほしいと思っています。高校生の時の僕に観てほしいな、なんて思いました。学生時代にこの映画を観ていたら、また違った青春があったのかなと想像します。

10代、20代の子たちの背中を押したり、自分の気づいていなかった内面を見つけたりするきっかけになればいいなと思います。

本当にそうですね。自分自身もヅカを演じながら、「俺ってこういう一面があるんや」と言語化できた時、知らなかった自分と見つめ合うような瞬間が、お芝居しながらたくさんありました。観てくださる方も、そう感じる瞬間がたくさんある映画だと思います。

あと僕はシンプルに、僕の読者さんに佐野さんファンになってほしいですね。

宣伝隊長として、よろしくお願いします!

この機会に、お互いに聞いてみたいことはありますか?

佐野さんのファンの方が、予告編の時点で、新潟で聖地巡礼をされていて、めっちゃ楽しそうだなと。佐野さんから新潟の楽しかった思い出を聞いて、僕も聖地巡礼したいと思ったんですよ。

マジすか? あります! 何日間か休みがあったんですけれど、まだ出会って1週間ぐらいしかたっていない(奥平)大兼と、2人でドライブに行ったんですよ。魚市場に行って、めっちゃ楽しかったです。新潟でライブさせてもらった時もファンの人たちから、あそこはいいよねと聞いて。海沿いを2時間ぐらいドライブして、そこで食べる魚が全部おいしかったし、道中の景色もきれいで。車がないと、難易度高めかもしれませんが、おすすめです。

調べて行ってみます!

僕の方からは、映画のことを聞くべきなのはわかっているんですけれど……確実に僕らにはない言語化能力と脳みそをもっていらっしゃる住野さんから見た、Aぇ! groupの良さって何ですか? なぜ好きになってくださったのかというのが、気になります。

まずAぇ! groupの関西ノリが好きなんです。その関西ノリがYouTubeやMCでもあるじゃないですか。そこからのキメる時はキメる、というカッコよさが最高なんですよね。「ボクブルース」がめちゃくちゃ好きなんですけれど、佐野さんが作られたんですよね。

作曲させてもらいました。

すごく楽しい気持ちにもグッとくる気持ちにもなれる、いろんな形のエンターテインメントを披露してくださるところが、大好きですね。

いただいたお言葉、大切にさせていただきます。

住野よる×菊池日菜子

「菊池さん以上のパラはもういないと思う」

パラ役が菊池さんと知った時、どう思われましたか?

大変失礼なことに、菊池さんのことを存じ上げませんでした。でも、実は今、5人全員とお会いする中で僕が一番緊張しているのは、菊池さんなんです。

そうなんですか!

最初に完成した映画を観た時、菊池さんも一緒にいらっしゃって。映画を観る前は、緊張感もなくご挨拶させていただいたんですが、映画を観終わった後、パラに見えて、めちゃくちゃ緊張しました。

その時にいただいた言葉が、うれしすぎて忘れられなくて。今もまだかみしめている途中なのですが、「菊池さん以上のパラはもういないと思う」と言ってくださって。それが、すっごくうれしくて、もちろん精一杯パラとして、映画の中で生きたつもりではいたのですが、それをどう思うかは観てくださった方次第なので、原作者である住野さんに、その言葉をいただけたことが何よりうれしかったです。本当にありがとうございます。

「愛が深いからこそやってのける自信はありませんでした」

そんな菊池さんが、最初に本作のオファーを受けた時、どう思われましたか?

青春小説の金字塔を実写化するという時点で、私が出演するしないにかかわらず、何て素敵な実写化が叶うんだという気持ちなのに、その作品に私が出演させていただけるというのは、役者としてとてもうれしいことでした。中でも原作を読んだ上で、パラは個人的に一番好きなキャラクターだったがゆえに、それをやってのけるという自信が正直、最初はありませんでした。

原作へのご感想を教えてください。

5人の心情を細かく描かれる住野さんの第一人格ってどこにあるんだろうと思って、それはずっと今の今まで疑問なので、この対談を通してちょっとでも知れたらうれしいなという気持ちでいます(笑)。また、読み終わって一番に、パラが好きだと強く強く思いました。今考えるとあまり気にしなくてよかったことだと思うのですが、学生時代の自分の立ち位置に当時はかなり縛られていました。きっと皆そうなんだろうけれど、自分だけが抱く悩みのようにも感じていて、でも言葉にするのも野暮だなと思っている自分もいて。とにかく自分に何かを課して、それにがんじがらめになってしまうというのは、誰しもあることなのではないかなと思います。私も経験していたので、読んでいて心が痛かったですね。でも、だから大好きという感情があって、パラへの愛をすごく強く持ちました。

続いて脚本を読まれて、どう思われましたか?

宮里ちゃんの好きの形が変わることが、悲しく描写されているところがあるのですが、個人的にそれがすごく好きです。好きだったものに対して、自分の中で好きの形が変わってしまうことって、素通りしがちだけれど、実は悲しいことなのかもしれないなと。台詞にはないのですが、その情景が脚本から感じられて素敵だなと思いました。

パッパラパーに秘められた意味

どう演じようと考えられましたか?

かなり悩みましたが、心情や内から来るものには、私の経験に覚えがあったので、そこから膨らませました。もちろん、中川監督とも話しながら。風貌というか、目に見えるものに関してはあまり定まったものが私の頭の中になかったので、中川監督に相談をして、基本、顎が上がっていて伏し目がち、声のトーンは今よりかなり低くして、という風に演じるようにしました。フワフワしていて、突然横に曲がってもおかしくないような歩き方はかなり意識しながら、特にヅカを鼻歌まじりで連れ去るシーンは、ルンルンまではいかないけれど、「何だ、こいつは」という印象の女の子でいるよう心がけました。
準備期間中に、住野さんからお手紙をいただきました。「パッパラパーな部分は、三木ちゃんのことが好きとかではなく、自分の自信のなさから来ているものだと思っている」という風に書いてくださっていて、それを読んだ時に、痛かったんです。わかるがゆえに苦しくて、泣いてしまって。演技事務の方から、うれしいよねと背中をさすってもらったのですが、もちろんうれしいのもそうですし、過去に経験した菊池日菜子として過ごしてきた自分と重なって、パラの気持ちが痛いほどわかるから、出てきた涙に私も動揺して。この気持ちを忘れないようにしようと思いました。クランクインの前に貴重な言葉をいただき本当にありがたかったです。パラの役作りに、大きな一手をいただいた気がしました。

人気NO.1のトリックスター

住野さんの中では、パラはどういうキャラクターですか?

変な奴の内面って、どんなんだろうと考えたんです。小説に出てくる変な奴って、外面が変わっているという印象が強くて、そういう奴の内面はどんなんだろうと思っていたら、パラが生まれました。生み出してみると、読者さんからパラが好きだと、めっちゃ言ってもらえるようになって。親ばかだけじゃなくすごく人気があるんです、パラは。我が子たちの中のトリックスターですね。

今、「我が子」というワードが、うれしかったです。クランクインする前に、読者投票のキャラクターランキングをSNSで見つけまして、ぶっちぎりパラが1位だったのを見て、背筋が凍りました。「わかる、私もパラ大好き」と思いながらも、こんなに多くの人から愛されるキャラクターを、私は裏切ることなく演じることができるのかと。とにかく愛情ある方々が、がっかりするようなパラではいたくないという想いもありました。

プレッシャーでしたか?

自分に感じていたプレッシャーは、パラのことが大好きな私以外の他の誰かに向けたものではなく、自分がパラを好きだからこそ、というのが一番大きかったです。でも、クランクインして、昇降口で京くんに「何してんの」というシーンが、初めて言葉を発するシーンだったのですが、それを撮った時に、「結構パラ楽しいぞ」と感じました。気負いすると逆によくないのかもと思えて、だんだん自信がわいてきて、「よっしゃ、楽しもう」と、変わっていったような気がします。

菊池さんと撮影現場で初めて会われた時、何か発見はありましたか?

初めてお会いした時、撮影の合間か直前で、完全にパラが入っていて、今と全く違う感じでした。その菊池さんから、「住野よるさん原作の映画で史上最高の一作にしましょう」と言っていただいて。

舞い上がって思わずそんなことを言ってしまったかもしれません。すみません。

その言葉に、感動しました。パラっぽいし、それを菊池さんが本当に思ってくださっていたのなら、ものすごくうれしい。

もちろん、本心でございます!

パラとして生きられた喜び

そして、完成した映画をご覧になって、直接その場で菊池さんに先ほどのご感想を伝えられたんですね。

はい。本当に菊池さんを超えるパラはパラ本人以外いないと思います。

うれしいです。

それも、僕だけの感想ではなく、一緒に8年前に「か「」く「」し「」ご「」と「」を作った担当編集者さんたちが、「菊池さんすごい」とずっと言っていました。

ありがとうございます。自分で言うのはおこがましいのですが、私も撮りながら、パラになれたかもしれないと感じた瞬間がありました。特にヅカと対面するシーンは、ヅカの言葉一つ一つが、パラとして入ってくる感覚を本番で感じられて、それがパラとして生きられた実感として大きな喜びでした。

こちらこそ。少し話は戻るんですが、この物語を映画化しようとなってから8年ぐらい、ずっとパラを映像でどうするんだろうという期待と心配が僕と担当さんたちの中にはあったんです。僕らが勝手に作った高いハードルを菊池さんが超えてくださったので、今は読者さんたちに菊池さんのパラを観てほしい気持ちでいっぱいです。

すごくうれしいです。泣きそう。ちょっと待ってください(涙)。

あれもこれも、語りつくせない思い入れいっぱいのシーン

パラのお気に入りのシーンを教えてください。

たくさんあります。ミッキーとの体育館シーンのエモさや、宮里ちゃんとエレベーターの中で2人っきりになるパラの怖さも。そんな中で、僕がパラだ!と強く感じたシーンは、トイレに行こうとするヅカに、「ご一緒しますわ。王子様」と言って、「また今度な」と返されるやり取りですね。パラとヅカすぎて大好きです。

ヒーローショー終わりに、「よし、京くんダッシュだ」と言って5人で昇降口から校門を経てバーッと走るシーンがあって、その後にパラが息切れして皆から遅れを取るんですが、「パラ体力なさすぎでしょ」と振り返った時の三木ちゃんが衝撃的でした。目の前で見たその三木ちゃんに、一目惚れという感情があるならこれなんだろうなと思うくらい衝撃を受けて、あれはずっと忘れないと思います。振り返る三木ちゃんが光でした。あまりにも光で、それをドカンと受けて。その衝撃が大きすぎて、忘れられないです。恋、でした。

ヅカとの対面で泣いてしまうシーンは、いかがでしたか?

あそこは私もずっと不安で、何月何日にこのシーンがあるから、その日までに完全にパラとして気持ちを重ねて重ねて、最高の表現ができるようにという想いがありました。監督の意向で、テイクを重ねず本番にドンと出せるプランにしてくださったんですが、そのご配慮のおかげもあって、かなりあのシーンはパラでいられたのではないかなと思います。

苦労されたシーンを教えてください。

個人的に一番苦労したのは、三木ちゃんに鈴をもらった後、宮里ちゃんのいる部屋に戻って、ずっと言いたかった「ごめんね」を伝えるシーンです。私自身としてもそうですが、素直になるってすごく体力がいることで、熱量も大きくて、「ごめんね」ってたった一言なのに、うまく言葉が出ないんです。喉元で詰まる感覚と、涙が溢れそうになる感覚というのが拭えなくて、でも見える画としては涙を流したくなくて。そこがうまくいかないのが2回3回と続きました。中川監督とも話しながら、最終的に私がいたいパラでいられるように、かなり時間をいただきながら試行錯誤したので、より思い入れのあるシーンです。

あのシーン、パラと宮里ちゃんが、違う気持ちの「ごめん」を一緒に絞り出した。ここから2人は、本当の友達なんだろうなという瞬間に、グッときますね。

今はパラとしてではなく観客として、心の中のモゴモゴがわかる感じがします。

その後のベッドに飛び込んでくる、いい意味でバカみたいなミッキーもいい。だから皆ミッキーのことが好きなんだとわかるシーンですよね。

三木ちゃんは何か感じているのか、そうではないのか。いろいろ考えながら観るのも楽しかったです。

元10代である、あなたへ

どんな方に、何を感じ取ってほしいと思いますか?

10代を経験したすべての方に観てほしいと強く思っています。言葉にするのは難しいですが、自分自身のことも、周りにいる誰かのことも、きっと愛おしくなる作品だと思います。

僕は基本的には10~20代の人たちに訴える作品を作りたいと思っていますが、原作には結構大人の読者さんからもお手紙をいただきます。いろんな世代にちゃんとリーチしている作品だというのがうれしいので、映画もそうなることを願っています。

この機会に、お互いに聞いてみたいことはありますか?

今回5人が主要な登場人物として描かれていますが、それぞれ違う部分があって、とても一人の人が生み出したとは思えなくて。私には到底できないことなので、住野さんはどういう方なんだろうと思っていました。

登場人物全員、会ったことがないだけで、この世界に存在していると思っています。どこかで生きていると思っていて、だから友達や家族のように、散歩とかしながら、あいつ何を考えているんだろうと、ずっと想いを巡らせています。たとえばパラだったら、あいつ、ミッキーや京くんから見ると、飄々としているけれど、飄々とする時、少し疲れたりしないのかなみたいなことを考え始めて、そこからだんだんパラの人物像を作っていったという感じです。

そうなんですね。私にはない日常から生まれたパラ。一人一人の登場人物に愛があるのを感じられてうれしいです。出演させていただいた身として、仲間入りできたような気がします。あと、住野さんご自身はどんな学生時代を過ごされていたのかということを、お聞きしたいです。

いつも、学校の図書室にいましたね。昼休みは図書室にいて、そこに並んでいる本の作者に憧れて小説家になったという感じですね。言わば学校から生まれた小説家なので、本作のように学校内主体のお話しが、皆さんに読んでもらえたりすると、あの頃の自分が報われたような気持ちになります。

まさにこの作品、そうですよね。観た後に私も報われた気持ちになったので。生み出してくださり本当にありがとうございます。

全然関係ないこと聞いてもいいですか?

もちろんです。

僕、THE ORAL CIGARETTESのファンなんですが、MVに出られてましたね!

観てくださってありがとうございます!

映画に臨む時と、MV撮影は気持ちが違うんですか。

MVの撮影は撮りたい画と世界観というのは決まっているのですが、その人物を作り上げるための役の詳細な部分は、自分の中で構築していく必要があることが多いです。

菊池さんきっかけで、カネヨリマサルも聴き始めました。ジャケだけ拝見したことがあって、あれも菊池さんだったんだと思って。

私の好きなものを辿ってくださるなんて。私も住野さんの好きなアーティストさんを教えていただいてもいいですか。

『君の膵臓をたべたい』『青くて痛くて脆い』の映画の主題歌を務めてくださった、Mr.Children、sumika、BLUE ENCOUNTを、菊池さんに聴いていただけたらうれしいです。大好きな主題歌なので。

聴き込みます! 楽しみができました。ありがとうございます。

住野よる×早瀬憩

早瀬憩は〇〇〇〇?

エル役が早瀬憩さんと知った時、どう思われましたか?

早瀬憩さんが宮里ちゃん役をやっていただくことになりましたという時に、プロデューサーさんから同時にお伝えいただいたのが、僕の作品の読者さんであるということと、誉め言葉として早瀬さんはバケモノですと。間違いのない方ですと言われて、早瀬さんが他に出られている作品を何も観ずに、最初に宮里ちゃんを観ようと楽しみにしていました。

ありがとうございます。突然、早瀬憩はバケモノですなんて、不審者ですよね(笑)。知らないところで、思わぬプレッシャーをかけられていたとは。

本作のオファーが来た時、どう思われましたか?

原作を読んだ時、もし映像化するならエルを演じたいと考えていたので、声をかけていただいて、まさかという感じでした。大好きな作品な分、不安もあったんですけれど、でも何よりうれしかったです。

原作のどんなところがお好きですか?

少しだけ特別な力を持っている高校生のお話しというあらすじを見ただけでは、内容がつかみきれないところがあったのですが、読んでいくと少し力を持っているだけで、なんら普通の高校生には変わりなくて。皆の心情だったり、心の移り変わりだったり、私も今17歳で高校生なので、共感できる部分がすごく多くて、心に響く台詞もたくさんある大好きな物語です。

ありがとうございます。

こちらこそです。

脚本を読まれた時は、どのように思われましたか?

原作のこの台詞がここに来るんだとか、原作のこれがここに出てきているぞとか、共通する部分を見つけては興奮してという繰り返しでした。読んでいるうちにキャストの皆さんの顔が浮かんできて、現場に入るのが楽しみでした。

読者さんに演じてもらえた喜び

どういう風に演じたいと考えましたか?

原作を読んでいて、5人の中でもエルに一番共感できて、自分に似ていると思うところが、性格面でもたくさんありました。ですが、原作ファンの中で、エルが好きという方ももちろんたくさんいらっしゃると思うので、小説のイメージを崩さないように、エルらしく演じられたらなというのは、ずっと心がけていました。

住野さんにとってエルはどういうキャラクターですか?

撮影前に早瀬さんに送らせていただいた手紙にも書いたんですが、もちろん5人に対して平等に愛情はあるんですけど、誰か一人一番気になる登場人物を挙げるとしたら、宮里ちゃんなんです。いつも揺れ動いていて、言い方はあれですが、めんどくさくて。でもそういう子たちの心の機微を書きたいと常日頃から思っているので、宮里ちゃんは大切な登場人物なんです。だからこそ、読者さんである早瀬さんに宮里ちゃんを演じていただいたということが、自分の中ですごく幸福だと思っています。

そのお手紙は撮影中ずっと台本にはさんでいました。私にとってお守りのような存在でしたね。この言い方が合っているかどうかわからないのですが、エルの取扱説明書という風に感じていて、エルの性格だったり、思考回路だったり、そういうものがお手紙をいただいてより鮮明になりました。毎日、読み返しながら撮影に挑みました。

ありがたいです。

早瀬さんと初めて会われた時や撮影現場で、何か発見はありましたか?

最初にお会いした時に、早瀬さんの演技を観ない状態でご挨拶させていただいたので、失礼な言い方だと申し訳ないんですが、可愛らしい10代の女性の方という感じでお話をさせていただきました。そこから次に会ったのが、スクリーンの中の映像だったので、そこでの俳優さんとしての早瀬さんにびっくりしました。思わず、プロデューサーさんがおっしゃっていた「早瀬憩さんはバケモノです」という言葉を思い出しました。

うれしいです。私も住野さんが来てくださった時には、緊張していてすっごいおどおどしていたと思います。あの日、私の撮影はなかったのですが、住野さんがいらっしゃると聞いて駆けつけました。お会いしている間も、ずっと夢心地で、ふわふわしていて。あの後、私ちゃんと喋れたかなとずっと考えてました。

エルと京くんと自転車=名シーン

完成した映画をご覧になって、エルの印象はいかがでしたか?

重要な台詞も当然いいんですが、ちょっとした機微が本当に宮里ちゃんで、早瀬さんはすごいなと思いました。たとえば、カフェでパラが京くんに意地悪する時に、早瀬さん演じる宮里ちゃんが身体を震わせるシーンがあって、そういうところが特に宮里ちゃんでしたね。

うれしい。

早瀬さんが演じてくださってよかったと心から思っています。

エルを演じて一番うれしい言葉を今、いただきました。

エルのシーンで、お好きなシーンを教えてください。

早瀬さんの俳優さんとしての力量は、特に関係性のシーンで感じました。パラとエレベーターで2人っきりになるシーンも、クラスメイトで友達同士なはずなのに、ちょっとパラに怯えている感じが、早瀬さんの目線や身体の置き方に出ていて、見事だと思いました。

ありがとうございます、ホッとしました。好きなシーンはたくさんあるんですけれど、今パッと出てきたのは、京くんとのシーンです。エルって基本的に自分の意思を周りに伝えられないじゃないですか。こんなこと言ったら嫌われちゃうかも、こんなこと言ったらおせっかいかなとか、そういうことを常日頃から考えて、自分の思っていることを内側に閉じ込めてしまう。そんなエルが自転車での帰り道で、京くんにちゃんとミッキーに気持ちを伝えないと「駄目だよ」というシーンは、エルにとって初めて自分の意思を人に伝えた瞬間だったと思います。もちろん不安や怖さはあったけれど、それ以上に京くんがエルにとって今までにないぐらい大切な存在になったのかなと感じました。エルが少し成長して1歩を踏み出すことができたシーンなので、大好きです。

京くんと宮里ちゃんと自転車が映っているシーンは、二人乗りのシーンも含めてほぼ名シーンです。京くんも宮里ちゃんもお互いに感情を抑えようとしているけれど、あふれ出てくる感じが伝わってきました。二人の表現に、とても感動しました。

最後にパラの矢印を見てからパラの顔を見上げるエルの愛情にあふれた表情もいいですよね。

表情だけにあれだけの意味を詰め込めるのはすごいですよね!

うれしいです。こんな褒めていただける時間があっていいんでしょうか。

エルのような子が幸せになれる世界を

観客の皆さんに、何を感じ取ってほしいですか?

住野さんがお手紙の最後に、「エルみたいな子が幸せであれる世界であってほしい」と書いてくださっていて、本当にその通りだと私も思いましたし、エルが幸せでいられる未来を、お芝居を通して描ければいいのかなというのをずっと考えていました。エルは“気にしい”な部分がすごくあって、自分に自信のない子です。私もそこはエルに似ていて、気にしいだったり、心配性だったりする部分があります。でも、エルが京くんに対して自信を持ってほしいと願うことで、自分も少しずつ変わり始めます。そんなエルを演じることで、私自身ももっと胸を張っていいんじゃないかというパワーを、この作品から与えてもらいました。もどかしさを乗り越えた先に、1歩勇気を出した先に、違う未来が待っていたり、ちょっといいことがあったり、自分のことを少しだけでも好きになれたり、そういうことがあるということを、この映画を通して伝えられたらうれしいです。

誰かを気遣って、でも自分も大切にしなくちゃいけないと葛藤する宮里ちゃんが、映画でもきちんと描かれていますので、それを観て早瀬さんがおっしゃったように、少しだけでも胸を張って生きてみようという人が増えるといいなと思います。

この機会に、お互いに聞いてみたいことはありますか?

この対談を読んでくださる読者さんサービスも兼ねて聞いてみたいのですが、早瀬さんが住野よる作品で一番好きな作品を教えてもらえるとうれしいです。

(頭を抱えて)難しい~。悩む~。ホント、全部好きなんです。学生をテーマにした作品が多いと思うんですけれど、共感できるものばかりで。頭の中にあった自分のもやもやとか、学生特有の悩みを、住野さんが言語化して文字に起こしてくださるので、私の名前のつかない感情はこれだったんだとなることが、本を読んでいてすごく多くて。(顔を覆って)あー難しい。「よるのばけもの」も「腹を割ったら血が出るだけさ」も「君の膵臓をたべたい」も好きです。一つに絞れないです。あと5時間は欲しいです。いつか絞れたらご報告させてください。

ありがとうございます、楽しみにしてます!

私からの質問です。新作の「歪曲済アイラービュ」を読ませていただいたのですが、それまで私は世界滅亡のことなんて考えたことがなくて、すごいことを書かれたなと驚きました。それで、住野さんだったら世界滅亡となったら何をするんだろうと思いました。

まず、新刊まで読んでいただいていることに、ありがとうございます。僕ももちろんあの作品を書いていて考えたのですが、小説を書きながら死ぬ時を待ちそうだなと思いました。何か特別なことをすると、他にできなかった特別なことがもったいなくなりそうで、だったらこのまま小説を書いて、最後、自分のやりたいことをやって終わったなと、思う暇もないとは思うんですけれど、そうしたいかなと考えながら書いていました。

貴重なお話を、ありがとうございます。

こんな素敵な青春の映画が公開される時の僕の最新刊が、あんなめちゃくちゃな物語で(笑)。

エピソードが斬新で、本当に面白かったです。あんなお話を私は初めて読みました。直接、住野さんに感想をお伝えできるなんて、こんな光栄なことはないです。

住野よる×ちゃんみな

10~20代のヒーロー

主題歌がちゃんみなさんと聞かれた時、どう思われましたか?

「ちゃんみなさんにオファーしようと思っています」と、プロデューサーさんから聞いて、「めっちゃいい!」と思いました。

うれしいー!

僕は10代から20代の子たちに読んでほしいと思って小説を書いているのですが、勝手ながらちゃんみなさんのことを、その世代の人たちの“戦うヒーロー”だと感じていたので。

ありがとうございます!

そんなヒーローが、本作の主題歌を担当してくださったら最高だと思いました。

いつからちゃんみなさんの楽曲を聴かれていたんですか?

最初にちゃんみなさんを認識したのが、「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」でした。

じゃあ、もう本当に初期の頃から。

そうですね。あの時に知って、そこから少し間があいて、「I'm a Pop」でめちゃくちゃカッコいい方だと思ったら「ちゃんみな」とあって、あの人か! と。それからリスナーになりました。気がつけば、いたるところで、ちゃんみなさんの名前を見るようになりましたね。

実はラブストーリーには苦手意識が

主題歌のオファーがきた時、どう思われましたか?

私にいただくお話って、闇系の作品が多いんです。(笑)ラブストーリーだと聞いて驚きました。普段から本を読むのは大好きなので、すぐに原作を読ませていただいたんですが、すごく素敵で、現代の子たちが共感できる物語だと思いました。それから映画も拝見して、私の中で今まで出ていなかったものが、ドバドバとあふれ出る感覚がして、すぐに思いついた楽曲があったので、お引き受けをしました。

すごいスピード感だったイメージがあります。アーティストさんって、こんな短い期間で曲を作れるのかと驚きました。

私は早い方ですね。インスピレーションがバッときたら、すぐ書いたり、今からスタジオに入ってレーディングできますかとか、そういうことが結構多いタイプです。小説家さんも、閃いたらすぐ書かないと、というのはありますよね?

そうですね。モチベーションが無くなる前に書く、という感じですね。

原作のどんなところが、特にお好きでしたか?

実はラブストーリー自体を毛嫌いする傾向がありました。どちらかと言うと、心理学や経済誌など硬い本を読むタイプなんです。映画だと、ホラーですね。そんなラブストーリー嫌いを覆されるような作品で、すごく刺さりました。

ありがとうございます!

相手の気持ちが記号で見えるという設定は、ある種のファンタジーでもあると思うのですが、それがちゃんと共感できるファンタジーになっているところが好きです。読む人の想像を豊かに膨らませながら、リアルに共感もできる、そのギリギリのラインを攻めてくるセンスが素晴らしいなと、勉強になりました。

光栄です。

初めて聴いた時、泣きました

主題歌を初めて聴いた時、どう思われましたか?

まず、タイトルだけを聞いたんです。このストーリーの主題歌に、「I hate this love song」というタイトルでくるなんて、すごいなと思いました。その時点で痺れて、曲を聴かせていただくのが、とても楽しみでしたが、実はその後は曲調も一切教えてもらえず、初めて聴いたのが、初めて完成した映画を観た日なんです。

何ですか、そのサプライズは! 力技ですね。ちゃんみなにぶっ壊されたらどうしようとか、怖くなかったですか?

ちゃんみなさんなら、どんな曲がきてもいいと思っていました。そしたら、ラストシーンとの非常に親和性の高い曲と歌詞が流れて、最初の10秒20秒でめちゃくちゃ心を掴まれて。エンドロールが終わった時、僕も編集担当さんも完全に作った側なのに泣いていました。

えー! ホントですか。うれしー!

泣いちゃったなと思って横を見たら、担当さんも号泣していて(笑)映画自体も読者さんたちに観てほしいという気持ちで、脚本に携わったりしたんですが、ちゃんみなさんの曲も含めて、読者さんたちに届いてほしいなと強く思っています。ちゃんみなさんが曲を作ってくださったら、映画に奥行きが出るだろうなと期待していたのですが、こんな素晴らしい歌を作っていただいて、原作者として感動しています。

ありがたいです。アーティスト、ミュージシャンとして、私が想像する“映画のラストシーンのその後”を書かせていただきました。

ご自身の初恋を思い出して書いてくださったんですよね。

そうです。初恋を想って書いたけれど発表していなかった曲があって、その曲を映画に寄り添いながら書き直しました。

ちゃんみなさんが自分の気持ちをありのままに歌ってらっしゃるからこそ、皆も自分のことのように共感できるのだなと思いました。

特にお好きな歌詞を教えてください。

僕は「世界中の人が知っても」という歌詞が素晴らしいと思いました。大切な人に対して持っているかくしごとって、その人にだけ知られなければ別にいいと思っていて、それを言葉にして入れてくださった。音源をいただいて、再生回数を見られたら恥ずかしいぐらい繰り返し聴いています。何度も聴いてると僕はパラのことに想いを馳せるんです。結果、ちゃんみなさんの歌詞きっかけで、来場者特典用のパラの短編を書きました。ちゃんみなさんがいらっしゃらなかったら、生まれなかった小説です。書くきっかけをくださって、ありがとうございます。

なにそれ!めっちゃうれしい。早く読みたいです。

ちゃんみなさんには、映画のお好きなシーンを教えてもらえますか。

私はなんと言っても最後の告白が、かくしごとっぽく終わる感じが好きです。ここでタイトルも回収していくんだと、うわっとなりました。

京くんの告白の音声がオフにされてますもんね。

それが、私的には一番刺さって、えー!!ってなりました。きれいに終わらせたかったら、絶対に結末はつけるじゃないですか。起承転結の結が無いなんて、なんてクールで気障なことするんだと思いました。とは言え、何を言っているのか気になるので、何とかしたいという気持ちになり、私なりに歌でフォローをさせていただきました。

映画化が決まってから8年間、頑張った甲斐がありました。

すごいですね。ほぼ私がデビューした時から始めてらっしゃるということですよね。

結果的に、8年かけてよかったです。ちゃんみなさんに出会えたので。

若い世代に届けたい想い

10代の方がこの映画を観たら、どんな風に感じると思いますか?

私はコクっちゃうんじゃないかと思います、好きな子に。映画を観た後に、勢いで告白しちゃうんじゃないかと。

いいですね。ふられても、つきあえても、どちらもいいなと思います。告白する前段階として、自分の好きの気持ちに気づく段階があると思うのですが、この物語も5人全員が自分の気持ちに気づくというところがあるので、それが観てくださった若い人たちにも起こって、自分の心に気づいた上で、それを持っていてもいいと思ってもらえたらいいですね。

私、初恋の人と映画館に行った時のことを、すっごく覚えているんです。ラブストーリーを観に行って、その人が椅子の下から、手をつないできたんです。この映画を観た若い人たちに、そういうことをしてほしいなと、ちょっと思いました。

ロマンティック!

お二人とも若い頃から創作活動をされていて、 周りの目やプレッシャーをどのように乗り越えられましたか?

僕は誰に読んでもらうこともなく、ただ新人賞に応募するというだけでした。小説はそれが可能というか、ある段階までは誰に見てもらわなくてもできるというか。

確かにそうですね。

ちゃんみなさんは高校生の時にBIGBANGに感動したのをきっかけに、着々と表に自分から出て行って今のご活躍ですよね。そんな人生、憧れしかないと思いました。小説家は陰湿な生活をしているので。

ミュージシャンも陰湿ですよ、だいぶ。レコーディング室もそうですけれど、私は特にレコーディングブースに入る際は部屋の明るさを一番暗くしてもらいます。書く時も暗くしないと書けない。暗いところに生きている生物です。

完全に僕もそうです。

でも、楽曲作りを苦しいとは思いません。作品を作っていると、ストレス解消的な部分もあります。

僕も書くことは苦しくない。楽しいんですよね、アイディアを見つけることは。整えたりする作業は嫌いですが。

期限とか領収書とか、予算とか、そういうのは苦手ですけれど(笑)、作るということを苦労だと感じたことはないですね。

若い人たちに「作ること」の楽しさや難しさを伝えるとしたら、 どんな言葉をかけたいですか?

難しいですね。やりたきゃやれ、ですね。

僕もそう思います。

やりたくなかったら、やらない方がいいです。

まさに映画の中で、パラが「人生なんて、やりたいことだけやっていてもきっと時間は足りない」と言っているように。

本当にそう。その台詞も大好きです。

ありがとうございます。

若い世代に発信する時に、意識していること、気をつけていることを教えてください。

メッセージを先に考えない。エンタメだから遊ぼうぜという気持ちです。読むと糧になるというのも、楽しみ方の一つだと思いますが、同時にエンタメだから一緒に小説を使って遊ぼうという気持ちがあって。それが、この映画にもあったらいいなと思っています。

確かに遊び心は大事ですね。住野さんもそうだと思いますが、心も身体も大人になっていきます、どこかにずっと10代の頃の自分がいるんです。その子と遊んであげることが大事だと思います。10代の子に私が進んで発信しているのは、失敗や叱られることを、怖いと思うなということです。

過去の自分がライバル

この機会に、お互いに聞いてみたいことはありますか?

本当に聞きたいことは、作品と全然関係ないんですけど……。

全然いいですよ。

どんな生活しているんですか? 日本一忙しいと思うので。

マジで忙しくさせてもらっています。母というのは大変な仕事だと思いながら、ギリギリでやってますね、今は。仕事に行って、保育園の入園手続きのために、書類を集めて走り回って、寝て、夜泣きあやして、朝起こして、また仕事に行ってという感じ。

表で見えている部分のちゃんみなさんだけでも、いったい何人いるのかと思うぐらいです。

もちろん落ち込むこともありますが、それを救ってくれるのが、創作だったりしますよね。住野さんは、たとえば今回の映画化でも、どこまでこだわるタイプですか?

小説家の中では、かなりうるさい方だと思います。

私もうるさいタイプなんですよ。お話ししていて、すごく通じるものがあると思いました。

僕が手を抜いたと感じたら、読者さんたちがガッカリしちゃうと思うんですね。高校生の時の自分が、すごいと思うものを作りたいという気持ちもあります。

わかります。過去の自分を超す系ですよね。比べるとか敵とかじゃなくて、過去の自分が常にライバルなんです。

お話しできて本当に良かったです。これからの作品も楽しみにしています。

ありがとうございます!

住野よる×中川駿監督

始まりは、京くんが主人公の短編小説

この小説を書こうと思われたきっかけを教えてください。

デビューして1週間ぐらいの時に、新潮社の編集の方が会いに来てくださって、日常のミステリーを書いてみませんかと持ち掛けられたんです。短編でいいと言われて書いたのが、京くんの物語です。登場人物が5人出てくるんですが、これで終わるのはこの子たちがもったいないなと思って、5人分の物語を書いたら1冊の本になりました。

京くんパートを書いている時は、その後、続くことは想定せずに書いていたんですか?

全く想定していませんでした。だから、ミッキーたちの視点の話は書く予定がなかったのですが、書き始めたら連載しようということになって、少しずつ出来上がっていったという感じですね。あそこで京くんだけでいいやとなっていたら映画になることもなかったので、書いてよかったです。

監督が映画化しようと思われたきっかけは何ですか?

この小説を映画化してみないかというお話をいただいたことがきっかけではあるのですが、松竹さんだからというのもありました。僕は映画監督としてデビューする前に、イベントのディレクターとして働いていたんです。イベントの制作会社に会社員として勤めていた時期があって、そこから脱サラして映画の世界に来て、自主制作映画を撮っていた期間が10年ぐらいあるんですが、その間もイベントディレクターとして働いていて、それで生計を立てていました。その時に通っていた制作会社が松竹さんの近くにあって、いつかはあそこで映画を作れる日が来たらいいなと思いながら出社していたので、その想いが叶ったというのが最初の理由です。そこから原作を拝読して、繊細な世界観が僕の『少女は卒業しない』と通じるところもあったので、僕の感性がもしかしたら力になれるかもと、お受けさせていただきました。

全く異なる原作者と監督の“大変”

映画化において一番大変だったところはどこでしょうか?

住野さんの大切な作品を、どうお預かりするかという自分のスタンスのところで、結構葛藤したというのが今回の作品です。というのは、本作の脚本を書いていた時に、すべてのクリエーターが、映像化作品と原作の関係を問い直さなければならない状況になるということがありました。それまでは僕自身も原作ものといえど、脚本・監督:中川駿という名前で出るから、僕が僕がという気持ちでいたのですが、非常に考えさせられました。原作者の方にとって自分の子供のような作品を、お預かりする立場の者としてどういうスタンスであればいいのかということを非常に悩みました。住野さんと脚本上でやり取りをさせていただいて、キャラクターへの愛情がすごく深い方だなというのが、お戻しいただいた内容から見て感じられたということもありました。

めちゃくちゃいろいろ書きましたね、すいません。

いえいえ(笑)、愛情を感じたので、それをちゃんとお預かりしなきゃいけないなと。でも、やはり映画のプロとして、映画化するのなら、たぶんこうした方が住野さんが考えていることを忠実に映像化できますよと提案はできると思ったので、住野さんの想いと自分の映画のプロとしての力を出し合って、お互いが納得できるものを作るというスタンスにこだわりました。そこは大変だったといえば大変でしたが、やりがいを感じられるところではあったかなと思います。

僕の場合は、一番大変だったのは、中川さんと出会うまでの“監督探し”です。プロデューサーさんたちとやり取りしながら、6年かかりました。中川さんからいただいた脚本の初稿を読んで、それまでどうしても減点法で様々な脚本を見ていた僕と編集担当さんが、「ここいいね、ここもいいね」と盛り上がって。作っていただきたいという方に、ようやく出会えました。

出会えましたね。

偉そうに聞こえると申し訳ないんですが、この方の作る『か「」く「」し「」ご「」と「』を観てみたいと思わせていただいたんですよね。

映画オリジナルシーンにはこんなワケもある

映画化するにあたり、表現を“変えたこと”と“変えなかったこと”を教えてください。

変えたところはもちろんありますが、基本的にはお預かりして、それを映像化するというスタンスでやっていたので、ほとんど変えていないと思います。映画オリジナルで入れさせてもらったところで、パッと思い浮かぶのは、水族館のシーンのイカのくだりですね。原作を読むと、水族館という画的にも美しい場所に行くのですが、そこで為される会話が鈴の話で、水族館にまつわる話は特に出てこない。

そうですね(笑)。

そうすると、何かと撮影準備が大変な水族館である必要はないですよね、とプロデューサーチームは言うじゃないですか(笑)。僕は水族館を守りたかったので、ならではの会話を入れることで、水族館の必要のあるシーンにしたかった。もう一つ、京くんのことを観客の皆さんにより深く知ってもらいたい、好きになってもらいたいと思っていたので、京くんの魅力を水族館で話す何か妙案はないかなと、いろいろ海の生き物を検索していたら、コウイカというのが出てきて。

そういう風に出来上がっていったんですね。

そうです。結構戦略的に考えるタイプなので、逆算して検索したらコウイカが出てきて、コウと京の音が似ていたので、京イカいじりを入れてみました。他にも映画のオリジナルを入れているところはあるんですけれど、原作を守るためにやったつもりではあったので、うまく力になれていたらいいなと思っています。

キャストたちにまつわる裏話

原作とは違うけれど、印象に残ったというシーンを教えてください。

2か所あります。一つ目はヒーローショーの時のパラの演説ですね。話の主軸が原作とは違って、でもそれに説得力があるというか、映画での話の流れからだと、原作よりも中川監督が書かれた台詞の方が合っていると思いました。原作に元の文章があった上で、あれを書かれるのはすごいなと脚本の段階から思っていて。元があったら引っ張られそうなのに、それをちゃんと物語に寄り添うように書かれている。二つ目は、ヅカの空気感ですね。5人の中では、ヅカが一番原作とは違うかなと思っています。それは、佐野(晶哉)さんのパーソナリティもあると思うんですけれど、原作のヅカだとたぶんこの映画の世界観には、少し怖いのかなと思いました。作り上げられた映画版ヅカが、この世界にとてもフィットしていて、非常に印象的でした。パラがめっちゃ濃いので、それとの組み合わせもいいですね。

それは佐野くん主体かもしれません。佐野くんなりの理解で、こういうヅカだったらシンパシーを感じられると考えたんだと思います。僕はキャラクター作りに関しては、あまり細かいことは言っていません。こういう部分を担ってほしいという抽象的な話しかしていなくて、ディテールは5人に任せました。なので、あのキャラクター像を作ったのは、佐野くんのアイディアですね。

そう考えると、5人ともすごいですよね。

エルは原作と比べてニュアンスが違いませんでしたか?

担当さんと僕の間では、パラとエルは原作にかなり寄っていると話しています。ヅカ以外に原作と印象が変わっていると言っていたのは、京くんですね。担当さんの一人が、奥平(大兼)さんの京くんが、いい意味で色気があると言っていて。すっごいわかるなと思うのが、男の子な感じがするんですよね。現実にそこにいて、しかもクラスで超人気者のミッキーに告白するような子ですから、奥平さんの男の子感はいいなと思いました。

彼もいろいろ考えて、相談しながらキャラクターを作っていましたね。ここはどういう感情で臨めばいいか、ここは自分ならこうするけれど、そうしてもいいかとかいう提案を、一番してくれました。他の作品でもそうらしいです。しっかりとわからないことはわからないと言うし、話し合って作っていくというタイプですね。

事前にプロデューサーさんから、京くんを図書館で走らせないとうかがって、いいぞと思いました。

ミッキーを追いかけるというクライマックスは、普通は絶対走ると思うんですが、僕は図書館で走る奴のことを好きになれない。何より、京くんはそんなことはできないと思いました。でも、最後の最後、我慢できなくて少しだけ走るじゃないですか。そこも人間味が出ていて、いいかなと思いました。ロケハンの時から僕はここを走らせないと決めていたのですが、スタッフは全員がしっくり来てなかったんです。

あら、そうなんですね。

「ここで走らせないと、きりが悪くないですかね。クライマックスだからいいんじゃないですか」と皆から言われたんですが、押し通しました。

僕と担当さんは走らせないと聞いて、京くんへの解像度が高いですねと喜んでました!

よかった~。

原作と映画、それぞれの特別な幸福

監督は原作の、住野さんは映画の、それぞれの魅力を教えてください。

登場人物たちの心象描写の情報量がめちゃくちゃ多い。頭の中でああでもないこうでもないと思い巡らせている、その拗らせ加減がすごく繊細に緻密に描かれていて、10代の感情を解像度高く表現されているのが、小説ならではだと思いますし、素晴らしい。なんですけれど、映像化はどうしようかと、頭を抱えたところでもあります。心の声をすべてモノローグとして映像にのせると、ずっと喋っているような感じになってしまうので、制限のある映画ではどこまで使うかを見極めなければならない。本当に繊細な表現が小説の中では為されているので、是非映画を観て小説も読んで、それぞれの全く違うアプローチの仕方を楽しんでもらいたいなと思います。

映画ならではのよさというのは、何と言っても五感で味わえることだと思います。小説はいい意味でも悪い意味でも目しか使わないというか、己の想像力一つなんですけど、映画には登場人物たちがそこにいるうれしさがあります。特に映画館の大画面で観ていただくと、そこに質感を持って5人がいるというのは、小説とは違う幸福があると思いました。キャストの皆さんが5人の素晴らしい関係性と空気感を作ってくださったので、彼らのファンの方にももちろん観ていただきたいのですが、何より原作の読者さんたちに観ていただきたいと強く思っています。 そして先に映画を観て、あの時、5人はどう考えていたんだろうという疑問がわいた方は、小説を読んでください。そうだったんだという新たな発見があると思います。当然のことですが、2時間前後の映画では描き切れなかったエピソードが原作にはたくさんありますので、キャラクターを好きになった方にも是非読んでほしい。

この機会にお聞きになりたいことはありますか?

監督に一つおうかがいしたかったのですが、SNSで「そっと挟み込んでおいたアイディアの種が、若い世代の皆さんの心の中で芽吹くといいなと思ってます」と、あれは何のことをおっしゃっているのですか。

前々から思っていたことなんですが、心=本当の自分と一般的に思われているじゃないですか。それが真実かのように、当たり前のように通説になっている。だから、よくないことを考えてしまうと、自分が悪い人間のような気がしてしまう。ずっとそれが心に引っかかっていたんですが、ある時そもそも心=本当の自分だって誰が決めたんだ?という疑問に気づいたんです。その人の本質を表すのは行動であって、心の中で何を思っていても、自分を卑下する必要もないし、自信を持って生きていこう思ったら、ふっと楽になったんですね。そんな時に、本作のお話をいただきました。偶然にも心の中でこんな風に考えてしまう自分について悩んでしまう5人のお話だと僕はお見受けしたので、心=本当の自分なんだっけ?という発想を、アイディアの種としてまいておいて、この作品を観た方たちが、これからの人生を生きていく中で、どこかでそれが芽生えればいいなと思っています。

お話をうかがって、改めて中川さんに映画を担当していただいてよかったなと深く思いました。ありがとうございます。

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