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映画『雪の花 ―ともに在りて―』公開記念トークイベント オフィシャルレポ―ト

吉村昭の歴史小説「雪の花」を原作とする映画『雪の花 ―ともに在りて―』が1月24日(金)より全国公開中。映画の公開を記念し、本作の監督を務めた小泉堯史監督と、小泉監督を長年取材する株式会社キネマ旬報社の前野裕一氏とのトークイベントが吉村氏の作品や資料を展示している荒川区の吉村昭記念 文学館にて行われました。

トーク前半、吉村氏の原作「雪の花」を映画化するにあたっての思いを聞かれた監督は、「医者としての強い思い。それに全身全霊をかけて取り組んでいく高い志に憧れを抱きました。」と主人公の笠原良策の志に惹かれ、その人物を映画の中に立ち上げたかったと話しました。さらに、「笠原良策(松坂桃李)以外にも、大武了玄(吉岡秀隆)、日野鼎哉(役所広司)、この3人のトライアングルを基軸にすれば映画として成り立つのではないか」と、の3人の出会いを主軸に映画をイメージして原作を読んでいたそうです。

小説を映画化する上での思いを聞かれた監督は、「小説は史実を大事にして書かれていますが、映画の場合は歴史や史実だけを捉えていると映画として成り立ちにくい。」と映画化する難しさを吐露。さらに、「映画の場合は感情論で、映画は音楽に近い。起承転結、感情を描かないことには飽きてしまうし、感情に頼るということが大きなウエイトになってくる。」と、小説を映画に落とし込む上で気を付けているポイントを明かしました。今回は良策の妻である千穂(芳根京子)や、原作にはいない人物であるはつ(三木理紗子)を登場させることで、映画的要素を大きくしたそうです。はつは自分の家族が疱瘡の犠牲者となり、さらに自身も疱瘡にかかったことから迫害を受けますが、はつを描く上で、ハンセン病施設で医療活動に従事した精神科医の神谷美恵子さん(1914年~1979年)の著書「生きがいについて」が役に立ったそうです。「その本を読むと、その中に生きる人物が生きた言葉が書いてある。そういうものを散りばめながら映画を作っていきました。」と、原作から映画に付け加えた要素を話しました。

次に、キャスティングについて聞かれた監督は、「黒澤さんが言っていたのですが、映画で大事なことは脚本とキャスティング。キャスティングについては自信があります。」と自信を覗かせる監督。主人公の笠原良策を演じた松坂に対しては、「松坂さんは非常に素直で、この人物だったら主人公をきちんと掴んでくれると思った。」と、良策の妻・千穂を演じた芳根については、「俳優さんはそのセリフをどう捉えるかが大事なのですが、聞いている表情も非常に大事。芳根さんはその聞く表情がとてもよかったので、芳根さんにオファーをしました。」と、抜擢理由を明かしました。さらに、日野役の役所については、「お豆腐の“にがり”みたいなもので、この人がいてくれたことで映画がキュッと締まる。なかなか日本の俳優さんで役所さんみたいな人はいないので、ご一緒できただけでよかった。」と役所への尊敬の眼差しを見せました。

2023年10~12月にかけて行われた本作の撮影。撮影を振り返って大変だったことを聞かれた監督は、「ないですね。」ときっぱり。先月の1月に亡くなった撮影カメラマンの上田正治とは影武者(1980)の撮影から一緒だったといいますが、一度も喧嘩や言い合いはしたことがなかったそう。監督は、「カメラマンは監督以上に監督の身になるポジション。そこに素直に来てくれて、僕の目以上にビジョンを広げてくれる。頼りがいがある女房です。」と上田氏との思い出を語りました。さらに、劇中で印象的だった雪山撮影について聞かれた監督は、「スタッフがあらゆることを想定して準備してくれたので、僕が気を遣うことはなかったです。」と黒澤組からの信頼するスタッフに感謝の気持ちを伝えました。本作の題材となる疱瘡(天然痘)をどう見せるか苦労したかと問われた監督。それに対し、「コロナ禍もあって助かった部分もありますが、醜いものを見せたいという思いはなかった。」と醜い部分を見せなくてもこの作品は成り立つと思っていたと話しました。

さらに、原作にはない良策(松坂桃李)の殺陣シーンについて聞かれた監督は、「僕自身が水戸出身で、文武両道ではなく“文武不岐“という言い方が普及していて、武士が持っている精神性を医者が持っていてもいいだろうという思いがあったんです。」と、殺陣シーンには監督の子供の頃からの思いも含まれていたそうです。殺陣シーンを見た人からは「(黒澤監督の)”赤ひげ“みたい」という声もあがったといいますが、それに対し監督は、「嬉しいですね、真似というものも良いもので、学ぶということは“真似”することだと思います。」と、嬉しさをにじませました。

トーク後半、現在吉村昭記念 文学館で展示されてある展示品についても触れられ、本作でも使用された薬を潰す道具(薬研)も今回展示されているそうです。この薬研は黒澤さんが実際に自宅で使っていたもので、「僕にとっては黒澤さんが傍にいてくれているようでホッとする。」と、まるで黒澤監督に見守られているような気持ちになるという監督。『博士の愛した数式』では黒澤監督が使用していた椅子を使用していたりと、小泉作品には黒澤監督が使用した私物が作品ごとに散りばめられているそうです。

特集展示では薬研の他、吉村氏の自筆原稿「めっちゃ医者 伝」や、種痘に関する自筆メモ、「雪の花」に関する自筆メモの他、小泉堯史監督より寄贈された映画「雪の花 ―ともに在りて―」台本、「蜩ノ記」「峠―最後のサムライー」の劇場版パンフレット、撮影で使用された小道具や衣裳、スチール、衣裳デザイン画なども展示されています。

公開後、SNS上では「美しかった。」という声が上がっている本作。「黒澤さんも『美しい映画が作りたい。』と言っていました。僕も少しでも美しいものに寄り添いたいと思っている。」と小泉監督は話す。さらに、「スタッフの両親や子供、孫と一緒に観られない映画は作らないという気持ちでいます。」と自身の映画作りへの思いを語りました。

最後に、次の作品について聞かれた監督は、「水戸の出身ということもあり天狗党(尊王攘夷を目的とした集団)に非常に興味があるんです。でも残虐さが激しいので、それなりのものにできるかが難しい。」と次の作品に向けて頭を悩ませる場面も。「いろいろ映画の案は浮かぶけど、どのようにして映画に持っていけるか、と考えることが楽しい。」と、次の作品への意欲も語った監督でした。

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