著名人のおすすめコメント
- 増當竜也映画文筆運命は変えられるが、宿命は変えられない。親と子の絆もまた宿命であり、いくら断ち切ろうとしても、それは果たせない。『砂の器』はそのことを訴え得た名作として今なお讃えられ続けているが、私は別の面でも衝撃を受けている。なぜ、あのような善人が殺されなければならなかったのか? いや、善人だから殺されたのだ。彼は息子と父親にしかわからない絆の中に無理やり侵入しようとする邪魔者であり、とどのつまりは究極の「小さな親切、大きなお世話」がもたらした殺意の実践であった。俗に市井の人情を尊ぶ“大船調”を旨とする松竹映画だが、『砂の器』は時に人情が悲劇を招くという闇の面まで描出している。戦時中、地獄のインパール作戦に従軍していたという野村芳太郎監督は、大船調に倣った職人的手腕を常に発揮しつつ、根底ではペシミズム的視線による「人情の裏返し」をも密かに吐露し続けていた。その事は彼の他作品を鑑賞することでも明らかである。
- ファブリス・アルデュイニパリ日本文化会館映画担当『砂の器』は国民的にヒットした70年代の日本の超大作映画の一つである。
ある過酷な殺人事件の背景に潜んでいたのは人間の本質への長い、暗い、恐い旅路だったというストーリー。この映画はサスペンス・ミステリーというジャンルに分類されるのだが、同じジャンルの中でこの作品ほど観客を泣かせて感動させる映画は存在しないであろう。果たしてミステリー映画なのだろうかと疑問に思うくらいなのである。不思議なほどである。
それは、この映画には普段のミステリー映画にはないドラマ性の次元が非常に高いという理由にあるのではないかと思う。作曲家芥川也寸志の素晴らしい音楽のおかげもあるが、この映画の持つ悲劇のハイスケールと構成はまるでオペラ級の格付けである。そう、キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』のスペースオペラやレオーネ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』のウエスタンオペラがあるように、『砂の器』はあえて「ミステリーオペラ」と名付けたい。和賀英良、ボーマン船長、ハーモニカはみんな長い、暗い、恐い旅をするという宿命を共有している不憫な人物なのある。これは偶然ではない。
一般の方のおすすめコメント
- Comment原作を遥かに凌ぐほど見事な作品だった。yuzuchan/70代
- Comment大変選ぶのが難しかったのですが、『砂の器』を選ばせていただきます。野村芳太郎監督と松本清張のコンビが大好きです。推理や刑事ドラマの要素だけでなく、差別や偏見とどう向き合うか考えさせられます。そして物語を貫くひとつの音楽と津々浦々の旅…こんなに人生において大切なものが詰まった映画は他に無いと思います。まだ20代のうちに出会えて本当に良かったですし、この作品を観るために生まれてきたのだとさえ思えるくらいの宝物のような作品です。この先何度も、ひとりでじっくりと、そして大切な人と観返したいと思います。yanomu/20代
- Comment"前半を淡々と描くことで「何この淡白な刑事ドラマは?」と思わせておいての後半の怒涛の展開。
テーマもさることながら、そういった構成にも味わいを感じます。今でも年に一度は必ず観ています。"chance/40代 - Comment重厚なストーリーはもちろん、銀座のバーやカフェ、警察署、町並みなど、今の時代だとリアルに再現するのがなかなか難しい70年代当時の情景がたまらなかったです。博物館に行った時のような興奮感を覚えました。カフェで溶け切ったアイスクリームをすする今西刑事が良い!!821/20代