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【映画公開までの道のり】プロデューサー編

公開に向けて山あり谷ありですが、どの映画も諦めず険しい道のりを歩んでいます。
今回はなかなか表に出ることのない、映画プロデューサーや営業スタッフの仕事内容や想いを『#映画公開までの道のり』と題し紹介していきたいと思います!


【第一回配信】プロデューサー 房俊介/阿部雅人

◆プロデューサーはどのような仕事ですか?
仕事をする上で、心がけていることはありますか?

【房】
誰よりも責任を持って作品を愛することです。
山田監督や山田組スタッフの人柄に憧れてこの業界に入り、このチームが創る映画のお手伝いをいちスタッフとしてやってきました。
プロデューサーを任された以上、これまでと同じような受け身の仕事では卑怯で、クリエイティブではないと思います。
会社や監督からのメッセージをしっかり感じて、そして自分のフィルターを通して表現しました。
脚本やキャスティング、スタッフィング、宣伝、その他、この作品全体を通して監督としっかり向き合うことができたと思います。
あとは監督の体調管理も大事です。監督の撮影中の朝食と昼食作り、これは今まで通り続けました。

【阿部】
プロデューサーの仕事は多岐にわたります。企画の立ち上げから社内での製作決定、撮影に向けたキャスティングやスタッフィング等の準備はもとより、映画に出資をしてくださるパートナー企業様へのプレゼン・交渉まで行います。
そして撮影中には出演者とスタッフが安心して撮影に臨めるための現場づくりを行い、撮影を終えた後には作品のヒットに向けて、営業部や宣伝部と連携して宣伝活動のサポートにもあたります。
また映画が公開した後にはDVDなどのパッケージや配信事業、海外への販売など二次利用の運用に向けた仕事が待っており、各窓口と共に取り組んでまいります。
このようにプロデューサーは誰よりも作品と長い時間を過ごし続ける存在だからこそ、先を見越した行動と、客観的な視点をもつことが大切と考えています。
そして作品に関わった全ての人がこの映画を好きになり、応援して下さるよう、仲間を増やしていくということも心がけています。

◆企画~公開決定までの流れ
【阿部】
2018年、本作の原作者である原田マハさんと山田監督が対談をしたことがこの企画のはじまりです。
原田マハさんは、映画館で初めて観た作品が「男はつらいよ」(第一作)というほど、山田監督作品に思い入れがあり、お二人にとって運命的な出会いでした。
山田監督の方でも原作『キネマの神様』をお読みになって、原田マハさんとお会いになって、「僕が映画化するのであればこういう風にしたい」というアイデアがどんどん湧いてきて、ほどなくして出版社の担当者の方と松竹で話し合いの場を設け、映画企画として動き出すこととなりました。
当時、本作は2020年公開予定で、松竹キネマ合名社の設立からちょうど100年目にあたるため、社内で協議の上【松竹映画100周年記念作品】という冠をつけようということになりました。

◆菅田さんの起用理由、キャスティングの流れ
【房】
原作を読んだ時から、ゴウのイメージとして「繊細な狂気」という言葉を使ってきました。
独特の存在感、周りを包み込む暖かい色気と、そしてどこか危険な匂いのするゴウ。
その若かりし日の青年時代を演じられるのは、菅田将暉さんしかいないと思いました。
監督が好むであろう、菅田さんの映像やスチール写真を集めて、脚本をしている段階から監督に提案して、キャスティングへ進んでいきました。

◆沢田研二さんが志村けんさんの遺志を継ぎ、出演を決意して下さった時のお気持ち
【房】
志村さんが入院しているときに過去パートの集合写真を撮るタイミングがありました。
最初は普通に集合写真を撮って、その後で「志村さんの回復をみんなで待ちましょう。
病室に写真を届けるので、みんなでアイーンしてもう1枚撮りましょう」と言って、みんなで志村さんを想って全力でアイーンしました。
しかし、まもなく降板の連絡が入ってしまいました。
監督やスタッフ、キャスト、映画に関わる全ての方々の中に絶望感が漂い、撮影中止の声も聞こえ始めましたが、「この映画が完成しないことを一番悲しむのは志村さん」と言い聞かせ、何がなんでも完成させると切り替えた時に真っ先に沢田研二さんが浮かびました。
沢田さんは「志村さんの、お気持ちを抱き締め、やり遂げる覚悟です。」と、出演の意思を固めてくれました。
漂っていた不穏な空気も一気に晴れ、志村さんのためにも、沢田さんとしっかり準備して新たな『キネマの神様』を描いていくんだ、という雰囲気になりました。
志村さんにも、沢田さんにも感謝の気持ちでいっぱいです。

【阿部】
志村けんさんの降板が決定したとき、我々は目の前が一瞬にして真っ暗になりました。
誰もが知っているお笑い界のスーパースターとともに映画づくりが出来ることに心躍り、ゴウを演じられるのは志村けんさんしかいないと誰もが信じこんでいたからこそ、その存在を失った我々の悲しみは非常に深いものでした。
そんな中、沢田研二さんが代役を務めてくださることとなったのは暗雲立ち込める現場に見えたまさに一筋の希望の光でした。
そして実際に沢田さんにしか演じられないゴウというものをスクリーンの中で体現してくださり、映画「キネマの神様」にとって唯一無二のゴウが生まれることとなりました。

◆コロナで撮影中断期間に考えていたこと
【房】
志村さんが演じる予定で書かれたゴウを、沢田さんのイメージに合うゴウにするために、監督と脚本の朝原さんと本直しをしていました。

【阿部】
撮影は中断されたものの、撮影を取り止めという選択肢は全くなかったため、どの時期に、どのように撮影を再開すべきか、ということばかり考えていました。
また、それもただ再開をすればいいというだけではなく、現場に集まる出演者とスタッフが安心して仕事に臨んでもらえるためにはどういう現場づくりをすれば良いのかということも思案していました。
また中断期間中には、山田監督が脚本の内容を再考されていたため、それを実現するため各所への交渉を私の方でも行ったりしていました。

◆撮影中意識していたこと、大変だったこと
【房】
クランクインの際に監督がスタッフやキャストを前にして「こんな状況でも、我々はただ映画を完成させればいいのではなくて、良い映画を、良い写真を撮らなければいけないんだ」とお話ししてくれました。
常にコロナウイルスの脅威がありましたが、良い映画を完成させるという強い気持ちで臨んでいました。

◆撮影中、山田組ならではのエピソードはありますか?
【阿部】
誰もが経験のないパンデミック禍における撮影ということで出演者にもスタッフにも本当に多くの苦労をかけることとなりました。
全てにおいて感染予防対策が優先され、自由が利かず、非常に制限の多い撮影環境だったと思います。
それでもたった一人も文句を言わずに、快く協力してくれたのは毎年顔を合わせて馴染みのある山田組のメンバー同士、お互いへの信頼関係があったからこそだと考えます。
また撮影に向けて感染症予防対策を盛り込んだ撮影ガイドラインというものも作成しましたが、制作部のスタッフから他の撮影チームにも共有していいか?と訊かれて、喜んで渡したりもしました。
自分たちのことだけでなく同じ撮影所にいるほかの組のことまで考え、自ら模範になろうと全員が努力出来たのは山田組ならではの魅力と感じました。

◆特に思い入れの強いシーン(注目してもらいたいシーン)
【房】
菅田さん、永野さん、野田さん、北川さんの4人が、ふな喜で七輪を囲んで夢を語り合うシーンです。
丁寧に演出をつける監督がとても生き生きしていました。
そのうち芝居が固まり、役者さんや監督、スタッフの気持ちが共振し始めた時に、すごいシーンが撮れた!と思いました。
それはどこか、寅さんの「くるまや」での掛け合いに見えてきました。
寅さんやさくら、マドンナ、おいちゃんやおばちゃん、タコ社長。信頼関係がしっかりできた時にしか生まれない名シーンだと思います。

【阿部】
撮影所のシーンにはぜひ注目をしていただきたいです。
何気ない馬鹿話をしてスタッフと笑いあったかと思えば、カメラのまわりに集まって真面目な表情で目の前の俳優たちの芝居を見守ったりして。
当時、撮影所で過ごしていた全員が本当の家族のように身近で、お互いに大切な存在であったことが本作の中で感じてもらえると思います。
そして何より、映画をつくることに誰しもが喜びを感じていたことが伝わってくると思います。
当時はロケバスのスタッフから大部屋俳優にいたるまで、全員が松竹の終身雇用の社員でした。
そんな家族のようなつながりを少しでも再現できるよう、撮影所のスタッフ役には松竹芸能の芸人さんや、松竹エンタテインメントのタレントさんなど、弊社グループ会社に所属される方々を多く起用させて頂きました。

◆『キネマの神様』を楽しみにしている皆さんへ一言
【房】
主演の志村けんさんをコロナで失い、緊急事態宣言により撮影中断、公開延期。
今年に入ってからも二度目の公開延期と、キネマの神様の存在を疑う時期もありましたが、奇跡的に完成し、8月6日に公開を迎えます。
監督は、「スタッフやキャストの愛情がスクリーンに映り込む」という話をよくしますが、この映画は、これまで応援していただいたり、心配してくださった皆様の気持ちも映り込んでいるような気がします。
劇場でご覧ください。

【阿部】
本作はいくつもの壁にぶつかり、何度も苦境に立たせられましたが、それでもいくつかの奇跡に巡り合うことができて、私たちは映画を完成させることが叶いました。
大きな不安を抱えながらも撮影することを諦めなかった山田監督をはじめとしたスタッフ、出演者たちの本作にかける想いというものをスクリーンから感じ取ってもらえれば、この上ない喜びです。
本作は新型コロナウイルスというものに最も苦しめられた映画作品のひとつだと思います。
皆さんも日々やりきれない思いを多く抱えてお過ごしと存じますが、この映画の封切りを映画館で我々と共に見届けていただくことで、何かひとつ乗り越え、前を向いて再び歩き出すきっかけとなれば幸いです。

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