本作の公開を記念して、1977 年に公開された野村芳太郎監督の不朽の名作『八つ墓村』4K デジタル修復版の世界初上映と、9/18 に公開を迎えたばかりの清水崇監督による新作『八つ墓村』との2 本立て上映を行いました。そして上映後には、野村版と清水版の両作に出演した唯一の俳優・五頭岳夫、清水崇監督、映画評論家の樋口尚文が登壇し、野村版での貴重なお話や清水版の制作秘話を披露しました。

※以下、本編のネタバレも含まれます
4K デジタル修復版により鮮やかに蘇った野村芳太郎監督の映画『八つ墓村』と、J ホラーの旗手・清水崇監督による映画『八つ墓村』の二本立て上映で計4時間の鑑賞を終えた熱のこもった観客に見守られるなかで、俳優・五頭岳夫、清水崇監督、映画評論家の樋口尚文が登壇した。

冒頭で、「お足元の悪いところお越しいただきありがとうございます。自称、1デイ1シーン俳優の五頭岳夫です」と挨拶する五頭へ、「ごずっちー!」の声援が飛びかい会場内は温かな笑顔に包まれた。

清水監督は、「2本目の2026年版の『八つ墓村』を監督しました、清水崇です。今日は長丁場ありがとうございました。もう少しだけトークにお付き合いください」と挨拶。

映画評論家の樋口は、「実は、今日9月23日は因縁がある日でございまして、49年前の1977年今日は、野村版の『八つ墓村』が公開された日です。私は当時、初日に松竹セントラルへ見に行ったのですが、入口に八つ墓明神が飾ってあり、そこをくぐらないと入れない作りになっていました。入ったら祟られるというね(笑)。そして約半世紀を経た今日は、新しい『八つ墓村』と2本立てで拝見するという、まだ祟りが続いていたのかという状態です」と八つ墓村との因縁を嬉しそうに明かした。

本日、世界初上映となった野村監督の4K デジタル修復版『八つ墓村』について、清水監督は、「僕は新文芸坐などの劇場でも何度か見ているし、VHS、DVD、Blurayを持っていて、今年に入ってからも10回以上見ているんですよ。自分の公開前に覚悟を決めなきゃという思いもあって…」と、すでにセリフを覚えるほど何度も鑑賞していることを前置きしつつ、「今日この新宿ピカデリーの大きなスクリーンで改めて拝見できたのは光栄でした。しかも、座席には野村芳太郎監督のファミリーもいらして、出演されている五頭さんもいらっしゃって、稀有な鑑賞となりました」と鑑賞できた喜びを語った。
すでに幾度も映画化をされており、樋口が「野村版はあまりにも強烈だからこそ、なにやってもなんか言われそう」と語る「八つ墓村」に対して、清水も「僕は野村版で『八つ墓村』に出会ったのですが、原作を読んでみると全然違っていました(笑)。当時ホラーという言葉は浸透していませんでしたが、野村監督が今映画を撮られていらっしゃったら、絶対ホラーを撮っていたと思います。『砂の器』(1974)や『鬼畜』(1978)等で、社会派な印象もありますけど、『影の車』(1970)なんて完全に『ローズマリーの赤ちゃん』(1969)ですし。『震える舌』(1980)も『エクソシスト』(1974)の後に撮られていますし、完全に影響を受けていると思います。『八つ墓村』は、原作となぜこんなにも違うのかと考えて、野村監督作を見返しているうちに、『この人、絶対ホラー志向だな』と思いました。子供だましと言われるジャンルに対して、名だたる俳優を並べることで、大人にホラーやオカルトを見せるということに挑戦したんだと感じました」と熱い思いを語った。
令和版とも呼べる清水監督による映画『八つ墓村』については、「本作では、直接的にはみせてないことで想像に訴えかける痛みや怖さを表現しました。実は、タイトルが出る前に警察が『生活安全課の、野村です』『市川です』と挨拶していて、そこは野村芳太郎監督と市川崑監督への敬意を込めました。その後に飛行機が飛ぶ音をあえて入れているのですが、それはショーケン(萩原健一)さんが演じていた辰弥が勤めていた航空会社の匂わせです(笑)。濃茶の尼にあたるフリフリさんの家のポストの表札には、“豊川浩二”と“真由美”と両親の名前があり、豊川悦司さんと石坂浩二さんと小川真由美さんからお名前を拝借しました。渥美さんだけは目立つので入れませんでしたが、いろいろと妙なリスペクトを込めています」と、清水ならではの挑戦に加え、随所に遊び心も込めたことを明かした。

そして、1977 年版と2026 年版の『八つ墓村』に出演している五頭さんの起用について、「実は、Netflix の映画でホームレスのボス役をやっていただいたとき、『この人、すごいな』とにじみ出る何かを感じていました。『地面師たち』でのご活躍を知らずに、今回『畑で遺体を見つける役は五頭さんでお願いしたい』とプロデューサーに伝えたところ、『あぁ、あの五頭さんですか』と言われ、ようやく気付きました。中々スケジュールが取れないほどお忙しかったですね」と明かす。
撮影時まで野村版の出演を明かさなかったという五頭は、「僕が劇団に入ってまだ2 年目のときだったんです。野村監督の作品には『砂の器』から、先輩と一緒に参加していました。撮影当初は心臓ドキドキバクバクで、人の後ろに隠れることしかできませんでした」と当初の撮影を振り返る。ちなみに、野村版の五頭の役どころは、「村の若者の一人役で、髭を生やした加藤健一さんの後ろにいる若者」だったといい、「そのセリフ欲しいな、前に出たいなという気持ちはなかったんですか」という清水監督の直球な質問に対しては、「もう、邪魔にならないようにという気持ちでいっぱいでした」と謙虚な返答をした。

映画の制作についても話は及び、清水版『八つ墓村』ならではの要素のひとつである仮面について清水監督は「原作には全くない要素です。原作には、久野さんの別にもうひとり医者がいますし、濃茶の尼にも対になる別の尼さんがいたりと、なにかと対になっているんです。登場人物を増やしすぎないためにも、それに代わる見立て殺人は何かということを考えました。その時に、顔と名前を隠して他人を責めたり、正義を振りかざせばなんでも許されてしまうことがまかり通ったりしているSNS の脅威に着目しました。仮面をつけ匿名性が守られていれば、殺人さえも犯してしまえるし自分のせいではないと言い逃れもできます。その怖さは今にも通じると思いました。そういう用途だったお面が、時間を経て魔除けになっているというオリジナル要素を入れました」と、原作から現代まで通じる群集心理の怖さを探ったと語る。
尾上松也が演じた金田一耕助についても、清水監督は「自分から言うのは恥ずかしいですが、金田一のキャラクターについては少しだけ僕自身が入っています。大人になりきれない子どもっぽい部分があるんです(笑)。劇中で、金田一が橋の上から、川で水遊びしている親子を見かけて、平凡な幸せに自分はたどり着けないという孤独を感じます。そういう狂気と、無邪気な童心の二面性の間に彼を置きたいと考えました。だからこそ、自分と同じような孤独を抱えるフリフリさんに目を向けることができるという流れにしたかったのです。桜の木がないのに、花びらが落ちてくるシーンは、もしかしたら自分が要蔵になりえたかもしれないという示唆です。ギリギリで正気を保っている金田一耕助がもつ色気だとおもんです」と力説しつつ、「こんなべらべら喋るとダサいですね…説明なしで気づいてほしかった」とこぼし、会場から笑いが起きた。
最後に、「やっぱり『八つ墓村』は大きなスクリーンは見るべきですね。僕ももう一回見ますので、みなさんも見てください」と五頭は出演した二作の『八つ墓村』への愛を語った。樋口は、「横溝正史作品や金田一耕助像について、それぞれ好きなものがあると思いますが、いろいろとアレンジされているのを楽しんでいただきたいです。清水監督作は大翻案なので、ポジティブにアレンジの表現を楽しんでいただきたいですね」と、横溝正史作品の映像化の魅力を語った。続く清水は、「樋口さんフォローをありがとうございます」と御礼を述べつつ、「僕は覚悟して臨んだので、否定的な意見も受け止めていかなきゃなと思っています。この作品を製作したことで、こうして野村版に出ていらっしゃった五頭さんともご一緒させていただけて、横溝ファミリー、野村ファミリーと知り合えたことは、本当に覚悟して臨んでよかったなと思います」と、八つ墓村を通してできた縁への喜びを噛み締めた。各々が映画『八つ墓村』に対する愛を語り合い、温かな拍手に迎えられながらイベントは終了した。
