著名人のおすすめコメント
- 黒沢清映画監督『晩春』の直前に撮られた小津最大の問題作。市井の民が戦争をどう乗り越えていくかをぎりぎりまで問い詰め、映画はついに一度死を経験しなければそれを成し遂げることはできないという結論に達する。その責任をひとり背負った田中絹代が壮絶だ。彼女を含め、夫も息子もだんだん死人に見えてくるところが凄まじい。もしこの作品がまっとうに評価されていたら、その後の小津のフィルモグラフィはまったく違ったものになっていたと思う。しかしそうはならなかった。このことに小津は意気消沈し、映画で真正面から戦争を扱うことをきっぱりとあきらめ、みなが知る後期のスタイルへと華やかに変貌していくのである。
- 景山理シネ・ヌーヴォ、
シネ・ピピア代表『晩春』『東京物語』などを先に見ていた者にとって、『風の中の牝雞』は衝撃だった。「小津は戦争映画を撮らない」そんな話はまったくのデタラメだった。これはまぎれもない戦争映画だ。戦場こそ出てはこないが、戦争による家族の分断、悲劇が圧倒的なまでの凄さで描かれている。盟友・山中貞雄を戦争で失った悲しみ、そして戦時中の体験…。そのことが小津にとってどんなに大きなことだったのかを窺い知ることができる。この戦争に向き合う映画を撮ったからこそ、翌年の『晩春』に至ったのだ。その後、「家族」を撮り続けることになる、その家族像の原点はここにある。あまりに痛ましい小津安二郎監督の傑作、数多の名作とともの繰り返し上映していきたいと思う。